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下館レイル倶楽部

真岡鐵道・関東鉄道常総線・JR水戸線が集まる「下館」を中心に活動する鉄道模型趣味・鉄道趣味の倶楽部です。(2009年6月12日開設)

カテゴリー「【特集:宇都宮LRT】」の記事一覧

【宇都宮LRT】本田技研北門まで「快速」で最速32分

■「高速区間」を70km/h運転すると所要32分

 宇都宮・芳賀LRT、先行整備区間のJR宇都宮駅東口~本田技研北門(約15km)を最速32分、途中停車は4ヶ所のみ――。
 すっかりご紹介するのが遅くなってしまったんですが、宇都宮市の総合政策課が市議会に対して提示した検討案では、かなり踏み込んだ内容が出てきました。

・LRT、快速導入で最大11分短縮(下野新聞 2014年1月18日)
 http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/region/news/20140118/1477543

 宇都宮市&芳賀町が共同整備するLRT(ライト・レール・トランジット)は、鉄道と路面電車の「いいとこ取り」をして、鉄道導入に近い効果をコストをかけずに実現するという、日本ではまだ目新しい「軽量軌道交通」システムです。
 (注:LRTは、宇都宮市が推進するネットワーク型コンパクトシティ戦略を実現するための「手段」の一つで、バス再編や地域内交通の拡充といった他の「手段」と連携させることが前提です)

 2013年秋、正式に芳賀町が話に加わったことで、先行整備区間はJR宇都宮駅東口~清原工業団地~テクノポリス~芳賀台~本田技研北門の約15kmに。
 この区間に19ヶ所の電停(電車の停留所/「駅」と考えて良いでしょうね)が設けられて、「各駅停車」だけでなく、朝夕ラッシュ時には「通勤快速」を走らせることも検討している……というのは既報の通り。

想定されるLRT運行ルートと停留所(下野新聞 2013年12月18日掲載)
▲ 2013年12月18日付の「下野新聞」に掲載された宇都宮・芳賀LRTの先行整備区間の現時点でのルート&電停案。私見ですが、(17)管理センター前~(19)本田技研北門までは将来的には「支線」になって、「本線」は(17)から東に延伸するのではないか……と。

 先行整備区間には、宇都宮市内に15ヶ所、芳賀町内に4ヶ所の電停(駅)を設置予定。
 全電停に停車するタイプの列車は15kmを43分、速達タイプの「通勤快速」だと各停より6~7分短縮=ということは36分か37分で走る見通し。
 この所要時間は、全区間に「軌道法」を厳格適用して最高速度40km/hで走る場合の想定なんですが、上記マップの内、専用軌道を新設する(8)下平出~(9)下竹下の間と、おそらくここも専用軌道になるだろう(17)管理センター前~(19)本田技研北門の間は「鉄道」並みに整備して高速運転(最高速度70km/h)すると、「通勤快速」はJR宇都宮駅東口~本田技研まで最速32分で結ぶ……と。


▲ 郊外では駅間距離が長め(駅と駅の間の距離が長め)で、鉄道のように高速運転することも、所要時間を短縮する有力な方法の一つです。

 鉄道のように高速運転を実現するためには、鉄道並みの設備が必要です。
 また、快速を運行する際、JR宇都宮線が古河駅などで行っている「緩急接続」(快速列車と普通列車が接続して、相互に乗り換え可能)を実現するには、追い越し設備を設置する必要があります。

 ただ、所要時間が短い路線かどうか、快速など速達列車が走る路線なのかどうかでは、路線の価値がまるで違います。
 また、現在は(19)本田技研北門までの先行整備段階ですが、今後真岡鐵道方面に延伸を行うことになれば、より長距離を運行することになるため、「途中区間をできるだけ早く!」ということが重要になってきます。

 この辺の話は、「将来の拡張性をどこまで検討・設計に含めるか」という長期戦略に関わってきます。


▲ とても重要なのが「将来の拡張性をどこまで検討・設計に含めるか」ということ。延伸の予定があったり、他の鉄道路線への乗り入れを検討している場合は、特に重要です。

 たとえ「今すぐ」は必要なくても、そう遠くない将来に必要になる可能性があるなら、「あらかじめ織り込んでおく」ことは、結果的にトータルコストを圧縮する効果があります。
 たとえば住宅建築でも、将来の増築を見越した設計にしておけば、いざ増築するとき最小限の費用と工期で済みますが、事前に全く考慮せずに設計・建築してしまうと、将来増築が必要になったとき、思わぬ追加費用や手間がかかってしまうことがあります。

 鉄道やLRTなど公共交通機関を整備する場合も同様です。

 将来の都市戦略・地域戦略を見据えて、どこまで延伸する計画があるのか。
 そのときどの程度輸送量が増えそうなのか。
 駅の大きさをどの程度拡張できるように見ておけば良いのか。
 車両のサイズや仕様についてどこまで余裕を見ておけば良いのか……等々。

 目先のコストや今見えている事象だけでなく、長期的な視点で考えておくことが重要になる……というわけです。

清原工業団地
▲ 宇都宮市にとって超重要エリアの清原工業団地。宇都宮市の財政の結構な部分を「清原地区が支えて」いるので、頼りになり分かりやすい交通手段を整備することは極めて重要! また、芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地に通っている人の多くも宇都宮市内に住んでいます。

 なお、相変わらず「赤字だ」というような言説を見聞きすることがあるのですが(「公共」交通なので、表面的な赤字黒字の採算性だけで判断するのはナンセンスなんですが)、宇都宮・芳賀LRTは「公設民営」「上下分離方式」で整備することが決まっています。

 これは、線路(軌道)はもちろん、駅や車庫などの施設、使用する車両の調達・整備などを含めた「下(インフラ部分)」は公的に整備して、運行会社は「上(列車の運行サービス)」に専念する方式です。
 これをバスに置き換えると、道路や停留所、使用するバス車両は公的に整備して、運行会社はバスの運行サービスに専念……と同じことになります。
 (注:LRT整備はバス活性化とセットで、今後バスに対してもさまざまな公的支援が行われる計画です)

 ご承知のように、地方の公共交通ネットワークを従来のような独立採算制で維持し続けるのは困難です。
 でも今、この「常識」は大きく覆ろうとしているんです。
 これまでは、とかく道路だ鉄道だLRTだバスだと分けて考える人が多かったんですが、今後は異なる交通手段であっても一つの「交通体系」として、バランス良く整えていくことが一般的になっていきます。
 具体的には、これまで道路を公的に整備してきたのと同様に、公共交通ネットワークも「重要な社会資本」として、少なくともインフラ部分は公的に整備する方向に変わっていくことになります。
 それが「公設民営」または「公有民営」の「上下分離方式」です。

 行政がインフラ整備の面倒を見る方式に変わるだけで、地方の公共交通ネットワークはかなりの部分が十分ペイするようになります。
 また、独立採算制だと全部の経費を運賃で回収しないといけませんが、行政がインフラを担当することでその分の経費がかからなくなれば、運賃の引き下げや運行本数の増加がしやすくなります。
 公共交通ネットワークが便利になって、しかも運賃も下がって利用しやすくなる(または、運行本数が増えて利用しやすくなる)のであれば、その分クルマを使わずに済む人が増えて交通量が減りますから、道路渋滞も緩和します。
 (クルマを使うか公共交通を使うか、より多くの人が「選べる」ようになることが重要!)


【当ブログの宇都宮LRT関連記事】

【特集:宇都宮LRT】下野新聞の連載記事「LRTを問う」について
「LRTを問う」第1回富山:中心部への回帰傾向が進む(下野新聞 2012年10月27日)について
「LRTを問う」第2回宇都宮:民間との信頼を築けるか(下野新聞 2012年10月28日)について
「LRTを問う」第3回いわゆる「採算性」の問題(下野新聞 2012年10月29日)について
「LRTを問う」第4回支援:国、県は市の計画待ち(下野新聞 2012年10月30日)について
「LRTを問う」第5回BRT:コスト安いが課題も(下野新聞 2012年10月31日)について
「LRTを問う」第6回議論:市は「受益」示しきれず(下野新聞 2012年11月1日)について
「LRTを問う」第7回連合栃木の主張(下野新聞 2012年11月2日)について
「LRTを問う」第8回筑波大大学院・谷口守教授へのインタビュー(下野新聞 2012年11月3日)について

朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編都市間競争に生き残れるのか(朝日新聞 2012年11月6日)について

建設費などの具体的なデータについて(2012年11月17日掲載)

佐藤市政3期目に、LRT導入への課題(2012年11月25日掲載)
課題(1)関東自動車との調整(2012年11月25日掲載)
課題(2)運行主体の決定(2012年11月25日掲載)
課題(3)市民への周知継続(2012年11月25日掲載)

とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その1)(2013年3月3日掲載)
とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)(2013年3月3日掲載)

100億円を超える基金の行方(2013年6月19日掲載)

「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算(2013年11月21日掲載)

JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示(2013年12月18日掲載)

使用車両は「30m級」を想定?(2013年12月28日掲載)

宇都宮市長「2018~19年に運行開始」(2014年1月6日掲載)


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【宇都宮LRT】宇都宮市長「2018~19年に運行開始」

■2016年度の着工から2年程度で運行開始かも

 宇都宮市の佐藤栄一市長は、今日(2014年1月6日)行われた新春記者会見で、宇都宮・芳賀LRTについて、「2016年度の着工をめざす」としたうえで、「2018~19年あたりで運行開始したい」と発言。

 これまで慎重な姿勢を貫いてきた佐藤市長が運行開始時期についてここまでハッキリ発言したのは、たぶん今回が初めて。
 これまでの流れを考えると、何も裏付けがなければここまで踏み込んだ発言を行うことは考えにくいので、関係各方面との協議や調整がかなり進んでいて、「時期を公表できる段階に達した」ことを意味するのでは……と推察できます。

・「2018年にも運行したい」 LRTで宇都宮市長(下野新聞 2014年1月6日)
 http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20140106/1466008

 これまでのところ、LRT先行整備区間はJR宇都宮駅東口~清原工業団地~テクノポリス~芳賀台~本田技研北門で、約15km。
 この区間に19ヶ所の電停(電車の停留所/=「駅」と考えて良いでしょうね)が設けて、「各駅停車」だけでなく、朝夕ラッシュ時には「通勤快速」を走らせることも検討しているようです。

想定されるLRT運行ルートと停留所(下野新聞 2013年12月18日掲載)
▲ 2013年12月18日付の「下野新聞」に掲載された宇都宮・芳賀LRTの先行整備区間の現時点でのルート&電停案。電停の地名が記載されていて、イメージが把握しやすい地図です。

 もうちょっとご紹介すると、電停は宇都宮市内に15ヶ所、芳賀町内に4ヶ所設置予定で、全電停に停車するタイプの列車は15kmを43分、速達タイプの「通勤快速」だと各停より6~7分短縮=ということは36分か37分で走る見通し。
 2016年度には着工予定で、今回の発表で2018~19年の運行開始を目指していることが判明しました。

 なお、先行整備区間の開業時までには、JR宇都宮駅の東西乗り越えは間に合わないとの想定のようで、この時点ではJR宇都宮駅東口が暫定的な起点になるようです。
 JR宇都宮駅の東西乗り越えと、JR宇都宮駅の西側整備などについても、並行して検討が行われていくのだろうと思います。

 既出の範囲内で注目すべき点は、


(1)先行整備区間に「芳賀・高根沢工業団地」にある「本田技研北門」が含まれた
(2)鬼怒川を挟んだ約2.4kmは専用軌道&高速運転
(3)「通勤快速」運行を検討、途中の停留所5ヶ所に追い抜き施設を設置
(4)車両1編成の定員155人(最大232人)を想定


 の4点が挙げられます。
 ((1)~(3)についての詳細(4)についての詳細)。

 「定員155人」に該当するLRV(ライト・レール・ヴィークル/LRT用の車両)といえば、先日「福井鉄道」が導入した「FUKURAM」こと「F1000形」がありますので、現在宇都宮・芳賀LRT用の車両としては少なくとも「30m級」のLRVを想定していることが分かります。


▲ 福井鉄道に導入されたLRV「F1000形」は、全長27.16m・全幅2.65mの3車体連接車です。

 1人の運転士さんでより多くの乗客を運べる方が輸送効率が高いことは言うまでもないことですし、着座率を高めて快適性を向上するためにも、自転車の車内持ち込みを容易にするためにも、できるだけ大柄な車両の導入が効果的といえます。


 計画を進める際、時期を明示することは重要なポイントですが、裏付けのないスケジュールなら安易に明示しない方が賢明です。
 これまでの流れを振り返ると、佐藤市長はこうした点に慎重過ぎるほど慎重で、運行開始時期について公の場でここまで踏み込んだ表現はしてこなかったと思います。
 その慎重な市長が具体的な時期を公言したということは、公言しても差し障りがないまでに「状況が整った」ためではないかと思いますので、今回の発言はかなり重要な意味を持っているように感じます。


【当ブログの宇都宮LRT関連記事】

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「LRTを問う」第1回富山:中心部への回帰傾向が進む(下野新聞 2012年10月27日)について
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「LRTを問う」第3回いわゆる「採算性」の問題(下野新聞 2012年10月29日)について
「LRTを問う」第4回支援:国、県は市の計画待ち(下野新聞 2012年10月30日)について
「LRTを問う」第5回BRT:コスト安いが課題も(下野新聞 2012年10月31日)について
「LRTを問う」第6回議論:市は「受益」示しきれず(下野新聞 2012年11月1日)について
「LRTを問う」第7回連合栃木の主張(下野新聞 2012年11月2日)について
「LRTを問う」第8回筑波大大学院・谷口守教授へのインタビュー(下野新聞 2012年11月3日)について

朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編都市間競争に生き残れるのか(朝日新聞 2012年11月6日)について

建設費などの具体的なデータについて(2012年11月17日掲載)

佐藤市政3期目に、LRT導入への課題(2012年11月25日掲載)
課題(1)関東自動車との調整(2012年11月25日掲載)
課題(2)運行主体の決定(2012年11月25日掲載)
課題(3)市民への周知継続(2012年11月25日掲載)

とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その1)(2013年3月3日掲載)
とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)(2013年3月3日掲載)

100億円を超える基金の行方(2013年6月19日掲載)

「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算(2013年11月21日掲載)

JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示(2013年12月18日掲載)

使用車両は「30m級」を想定?(2013年12月28日掲載)


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【宇都宮LRT】使用車両は「30m級」を想定?

■12月18日付「下野新聞」の記事を読み解くと……

 先日当ブログでもご紹介した宇都宮・芳賀LRTの先行整備ルート案
 このときのブログ記事は、ルートと電停(電車の停留所)を地図付きで紹介していた「読売新聞」web版の記事を読み解く形で記述しました。
 で、実は「下野(しもつけ)新聞」web版にもさらに詳しいマップ付きの記事が掲載されていましたので、遅れ馳せながら、そちらの情報も加味した考察をまとめてみます。

・LRT導入の年間支出、最大9・2億円 宇都宮市が試算(下野新聞 2013年12月18日)
 http://www.shimotsuke.co.jp/town/region/central/utsunomiya/news/20131218/1447282

・LRT全ルート案提示…「高速区間」「通勤快速」も(読売新聞 2013年12月18日)
 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tochigi/news/20131217-OYT8T01469.htm

 2013年12月18日付「下野新聞」は、現時点で宇都宮市が想定している先行整備ルートと、全19ヶ所の電停のおおよその位置を記載した地図を掲載しています。
想定されるLRT運行ルートと停留所(下野新聞 2013年12月18日掲載)
▲ 宇都宮・芳賀LRTの先行整備区間の現時点でのルート&電停案。電停の地名が記載されているので、イメージが把握しやすいですね。

 宇都宮市・芳賀町が先行整備するルートは、「JR宇都宮駅東口」~「本田技研北門」約15km
 宇都宮市内に15ヶ所、芳賀町内に4ヶ所の電停(電車停留所)を設け、全電停に停車するタイプの列車は15kmを43分で、速達タイプの「通勤快速」だと各停より6~7分短縮=36~37分で走る見通し。
 2016年度には着工予定で、早ければ5~6年後には実現する先行整備区間の開業時までには、JR宇都宮駅の東西乗り越えは間に合わないとの想定のようで、この時点ではJR宇都宮駅東口が暫定的な起点になるようです。

 前回のブログ記事で注目すべき点として、


(1)先行整備区間に「芳賀・高根沢工業団地」にある「本田技研北門」が含まれた
(2)鬼怒川を挟んだ約2.4kmは専用軌道&高速運転
(3)「通勤快速」運行を検討、途中の停留所5ヶ所に追い抜き施設を設置


 この3点を挙げました(これらの詳細は先日の記事をご覧いただくとして……)。


大きな地図で見る
▲ LRT先行整備区間は、芳賀町の途中から北上。広大な敷地の「本田技研」は、南北2ヶ所の電停が利用できる想定です。

 で、今回「下野新聞」の記事を読んでいて、大いに気になる記述を発見しました。
 それが、


 車両1編成の定員155人(最大232人)


 という部分です。

■「定員155人」のLRV=福井鉄道「F1000形」クラスを想定?

 「定員155人」に該当するLRV(ライト・レール・ヴィークル/LRT用の車両)といえば、先日「福井鉄道」に導入された「FUKURAM」こと「F1000形」が挙げられます。


▲ 福井鉄道に導入されたLRV「F1000形」は、全長27.16m・全幅2.65mの3車体連接車です。

 「F1000形」は、これまで日本国内で登場したLRVの中では最大規模の車両です。
 全長は27.16mで、いわゆる「30m級」のLRVに類します。
 全幅は2.65mで、鉄道車両に近い幅です。車内には通路を挟んで4人掛けのボックスシートが左右に並びます。
 定員は155人(座席53人)で、3車体連接車です。

 世界的に見ると、「F1000形」と同じ30m級LRVの輸送力は「普通」で、都市によっては40m級のLRVや、30m級のLRVを2~3編成併結する(編成長60~90m)ケースも結構あります。
 宇都宮では、以前の想定では富山ライトレールの「TLR0600形」と同等のLRV(全長18.4m・全幅2.4m)を想定していた時期もあったようです。
 しかし最近では、宇都宮市長が「LRTに自転車を持ち込めるように検討している」という主旨の発言をしていて、これは言い換えると「大柄な車両の導入を考えている」(車内スペースに余裕がなければ自転車は持ち込めない!)ということでもありますから、どうやら少なくとも30m級のLRVを念頭に置いて検討を進めているものと考えて良さそうです。

 マイカー依存度が高い地方で公共交通の利用促進を図るには、


「待たずに乗れる」十分な運行頻度
「飲んでも帰れる」遅めの時間帯までの運行
「快適に移動できる」余裕がある車内スペース


 が重要な意味を持ってきます。
 宇都宮・芳賀LRTの場合は、さらに、


「JRの最終列車から乗り継げる」終列車の設定
「自転車も持ち込める」余裕があるスペース
「クルマからも乗り換えが便利」な乗換拠点の整備


 が実現できるとなお良し、となります。

 輸送力に余裕がある大柄の車両を検討しているのであれば、これはとても良い話といえます。
 なぜかというと、ラッシュ時には混雑緩和になりますし、日中の比較的空いている時間には確実にイスに座れるし、自転車持ち込みスペースを確保しやすいからです。

 LRTの終列車は、少なくとも東北新幹線の終列車に接続する必要があります。
 できればJR宇都宮線の下り終列車との接続も取って欲しいところですが、25時台(翌日の午前1時台)にJR宇都宮駅を出発するダイヤになりますので、実現する場合は深夜料金(首都圏の深夜バスのように運賃が倍増するか、一律○百円の深夜料金を徴収)を設定しても良いかも。

 なお、運行時間帯について、「下野新聞」の記事では6時~23時と掲載しています。


■多くの人は「実現していないもの」を正当に評価しにくい!!

 LRT事業単体の採算見通しについて、「読売新聞」の記事では、


・年間の運営費……7億1600万円~9億2400万円
・年間の収入……7億4400万円~11億1700万円


 と紹介していますが、「下野新聞」の記事では


・年間の運営費……7.1億円~9.2億円
・年間の収入……7.4億円(最低限の需要で)


 と記載しています。

 「下野新聞」が掲載した年間収入「7.4億円」という数字は、「清原工業団地、芳賀工業団地の企業などに行ったヒアリング」の結果、LRT利用に変更する人が「3.6%」で、「1時間あたり1,695人が乗り換え」るという試算に基づくもののようです。
 この「3.6%」という数値は、「かなり控えめな数値だなあ」という感想で、実際にはさらに多くの人が転換することにはなると思います。
 (今の段階では多くの人にとってまだまだ「絵空事」で、実際にLRTが開業してみないと利便性を実感できない)


▲ 宇都宮市と姉妹都市のオルレアン(フランス)のLRT。公共交通サービスは、実際に開業して便利さを享受してからでないと、本来の価値を正当評価しにくいといえます。

 これまでに出ている需要予測は、沿線全てが対象ではないこと、先行整備区間が芳賀・高根沢工業団地の本田技研まで含まれることになったことから、今後調査を継続すればするほど、当然ながら需要予測は上方修正されていくでしょうね。


 LRTに限った話ではないのですが、「まだ実現していないもの」や「実際に見ていないもの」について、事前に正当な評価を下せる人は、ごくごく少数です。
 「百聞は一見にしかず」といいますが、多くの人にとって「実現した後」で初めて正当な評価が下せる状態になるのだ……というわけです。

 事前に正当評価が難しいのであれば、同様の事例がどうなっているかを見てみれば、ある程度想像できるといえます。
 宇都宮からもっとも近くで、新たに公共交通サービスの提供を始めた好例が「つくばエクスプレス(TX)」(秋葉原~つくば間)です。

 開業前は「建設費が莫大(整備費は8,000億円以上)」とか「どうせ赤字だ」とか「誰も乗らない」と揶揄され、開業直後に日中のもっとも乗客が少ない時間帯の列車が「ガラガラ」で「赤字必至だ」と一部報道で取り上げられたことすらありました。
 2005年の開業から8年。
 「つくばエクスプレス」沿線は急速な発展を遂げていて、今後も相当な伸び代があるだろうことが容易に想像できます。
 かつては宇都宮周辺以上にクルマに依存しきった地域だったのですが、利便性が高い公共交通サービスが提供されるようになって、沿線住民の意識も行動様式も変化しています。

 実際にできてしまうとさまざまな相乗効果が生まれますし、相乗効果が生まれるような工夫や努力をしていくことも大切だといえますね。


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「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算(2013年11月21日掲載)

JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示(2013年12月18日掲載)


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【宇都宮LRT】JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示

■JR宇都宮駅東口~本田技研北門を先行整備、「高速運転区間」「通勤快速」も!!

 宇都宮・芳賀LRTで、またまた新しい動きが!
 宇都宮市と芳賀町が中心となってLRT整備に向けた具体的な検討を行う「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」の第2回会合が行われて、宇都宮市・芳賀町が先行整備する区間の全ルート案が明らかになっています。

LRTのルートと停留所の案(読売新聞 2013年12月18日掲載)

 宇都宮市・芳賀町が先行整備するルートは、「JR宇都宮駅東口」~「本田技研北門」までの約15km。
 宇都宮市内に15ヶ所、芳賀町内に4ヶ所の電停(電車停留所)を設け、全電停に停車するタイプの列車は15kmを43分で、「通勤快速」だと各停より6~7分短縮=36~37分で走る見通しです。

・LRT全ルート案提示…「高速区間」「通勤快速」も(読売新聞 2013年12月18日)
 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tochigi/news/20131217-OYT8T01469.htm

 今回明らかになった情報で注目すべき点は、次の3点です。

(1)先行整備区間に、「芳賀・高根沢工業団地」にある「本田技研北門」が含まれた
(2)鬼怒川を挟んだ約2.4kmは専用軌道&高速運転
(3)「通勤快速」運行を検討、途中の停留所5ヶ所に追い抜き施設を設置

 (1)については、従来は宇都宮側と一体で先行整備する区間は「芳賀工業団地」付近までと発表されていたのですが、さらに北側にある「芳賀・高根沢工業団地」にある「本田技術研究所」が含まれたこと。
 「将来的には真岡鐵道への結節を見越す」方針なので、本田技研方面への先行整備区間は、おそらく将来的には分岐線になるのだろうと思います。


大きな地図で見る
▲ 芳賀町内の先行整備区間に「本田技研北門」が含まれることが明らかに。万単位の従業員を抱える企業や工業団地をサービスエリアに含めることは、今後の利用促進を考える上で重要な決定です。

 LRT先行整備区間が開業すれば、現在シャトルバスで通勤している人だけでなく、通勤で利用できる公共交通機関がなくてマイカー通勤している人の中からも、LRTが高頻度で時間通りに運行するのであれば、乗り換えを検討する人が相応に出てくるものと考えられます。
 (注:企業としては、従業員にはできるだけ公共交通機関を使ってもらう方が良い)

 また、今後の従業員の部屋探しや家探しの際、「東西基幹LRTの沿線かどうか」という選定基準が大きな意味を持つようになります。
 (直接の沿線でなくても、間接的に便利=バスなどと乗り継ぎが容易なエリアかどうかも次善の策になります)

 (2)については、鬼怒川を渡河するために下平出~下竹下に直線的で最短の専用軌道を新設することになるため、ここは鉄道と同じく高速運転が可能だということです。
 私見ですが、広大な清原工業団地内でも、道路脇に専用軌道を設けることができそうなのと、停留所の間隔を長めに取れるのであれば、高速運転が行えるのではないか……と見ています。
 まあこの辺は、今後検討が進む中であれこれ揉まれることにはなるのだろうと思いますが、早い&速いに越したことはないので、安全を担保した上でバランス取りをしていくことになるのかなと。


▲ 米国ポートランドのLRT「MAX」の動画。中心市街地での軌道をどのように敷設するか、部分的な高架や地下、専用区間を設けるかどうかも、定時運行性や速達性を考える際、重要になります。

 (3)については、鉄道が行っている普通列車と快速列車の待ち合わせや追い越しをLRTで実現しようという、少なくとも国内では前例がなかった意欲的な考え方といえます。
 記事では5ヶ所の追い越し施設をどこに設置するかまでは触れていませんが、スペース的な余裕がある主要電停(ベルモールとか?)や、大規模なパーク&ライド用の駐車場を備えるトランジットセンターなどが念頭にあるものと思います。


 また、LRT事業単体の採算見通しも明らかに。
 どんな車両を使って、どの程度の運行頻度にするのか、運賃体系がどうかなど、詳細が煮詰まっていない段階ではあるのですが、現時点では、

・年間の運営費……7億1600万円~9億2400万円
・年間の収入……7億4400万円~11億1700万円

 と試算しているようです。
 (運行経費や人件費など、他県の路面電車などの経営状況などを参考にしている試算だと思います)

 実際には、導入による効果はかなり広範に及ぶので、本当は事業採算性「だけ」で評価するのは的外れともいえるのですが、まあ一応の判断基準にはなるのではないかと。


 マイカー通勤からのモーダルシフトを促すためにも、適正な運賃水準で、高い運行頻度、かつ通勤ラッシュ時でも一定以上の快適性が保てる車両(=編成長が長い)での運行が望ましいところ。
 鉄道やバスなどの交通機関との乗り換え・乗り継ぎの利便性を高め、マイカーからの乗り換えも容易にしていくことも重要です。
 朝夕ラッシュ時は難しいかも知れないですが、車内に自転車を折りたたまなくても持ち込める状態だと、なお良いと言えます。


【当ブログの宇都宮LRT関連記事】

【特集:宇都宮LRT】下野新聞の連載記事「LRTを問う」について
「LRTを問う」第1回富山:中心部への回帰傾向が進む(下野新聞 2012年10月27日)について
「LRTを問う」第2回宇都宮:民間との信頼を築けるか(下野新聞 2012年10月28日)について
「LRTを問う」第3回いわゆる「採算性」の問題(下野新聞 2012年10月29日)について
「LRTを問う」第4回支援:国、県は市の計画待ち(下野新聞 2012年10月30日)について
「LRTを問う」第5回BRT:コスト安いが課題も(下野新聞 2012年10月31日)について
「LRTを問う」第6回議論:市は「受益」示しきれず(下野新聞 2012年11月1日)について
「LRTを問う」第7回連合栃木の主張(下野新聞 2012年11月2日)について
「LRTを問う」第8回筑波大大学院・谷口守教授へのインタビュー(下野新聞 2012年11月3日)について

朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編都市間競争に生き残れるのか(朝日新聞 2012年11月6日)について

建設費などの具体的なデータについて(2012年11月17日掲載)

佐藤市政3期目に、LRT導入への課題(2012年11月25日掲載)
課題(1)関東自動車との調整(2012年11月25日掲載)
課題(2)運行主体の決定(2012年11月25日掲載)
課題(3)市民への周知継続(2012年11月25日掲載)

とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その1)(2013年3月3日掲載)
とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)(2013年3月3日掲載)

100億円を超える基金の行方(2013年6月19日掲載)

「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算(2013年11月21日掲載)

JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示(2013年12月18日掲載)


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【宇都宮LRT】「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算

■「東側」(JR宇都宮駅~清原工業団地)の需要は「少なくとも9千人超/日」

 宇都宮・芳賀LRTで、また新しい動きが!
 宇都宮市が同市東部のLRT(ライト・レール・トランジット)導入に関して、沿線の一部企業や学校を対象としたヒアリング調査を行った結果、少なくとも「1日あたり9,089人」が利用するという試算が出ました。
 調査を行った企業や学校は沿線の一部に過ぎないので、今後も調査を続けると、さらにこの人数が増えることは確実です。

 で、これを報じた「下野新聞」の記事なんですが……。
 見出しだけを見ると「たった3,800人?」とも読めてしまうのですが、記事を読み進めると「合計9,089人/日」が利用するという試算だということが分かります。

・通勤通学、毎朝3800人利用 LRTのJR宇都宮駅東部で試算(下野新聞 2013年11月20日)
 http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/politics/news/20131120/1419003

 ちょっと記事の書き方がどうかな……と思ってしまうのですが、web版の記事と、新聞紙面の内容を分解して改めてまとめてみると、こんな感じになります。

 今回の市の試算は、
・「清原工業団地」の「従業員数250人以上」の「11企業」
・「清原地区」周辺にある「大学・短大・高校」の「3校」
 だけを対象としたヒアリング調査に基づくものです。

 また、沿線にある
・ベルモール(大型ショッピングモール)
・グリーンスタジアム
・清原球場
 以上3つの沿線施設への来客を試算に盛り込んでいます。
 ……ということは、言い換えると、これら以外の需要は「まだ盛り込んでいない状況」です。



・企業が自社運行する通勤シャトルバスは、現在3社で片道1,934人/日が利用
・通学バスの利用者は、片道500人/日
・企業来訪者は、10社で片道549人/日


・LRT開業後、通勤・通学バスの利用者は全員LRTに転換すると試算
・企業来訪者は、半数がLRTに転換すると試算
・清原工業団地&芳賀工業団地にクルマで通勤する人の3.6%がLRTに転換すると試算
・この結果、通勤通学利用者は、片道3,855人/日、往復で7,710人/日が利用すると試算


・通勤通学の需要とは別に、大型商業施設や県グリーンスタジアムなどの沿線施設への来場者数は、往復1,379人/日、往復503,652人/年と試算


・通勤通学と、その他の需要を合わせると、「往復で9,089人/日」が利用と試算
・片道の基本運賃が100~400円の設定で、年間収入は7.4億円を見込む
 (現状、路線バスでJR宇都宮駅~芳賀バスターミナル間は770円)


 この試算、かなり控えめな数字だなあ……というのが正直な印象です。
 (現状の企業シャトルバス利用者数がベースになっているので仕方ない面はあるのですけれども)
 クルマ通勤からの転換組は、素人判断ですが少なくとも5%以上を見込んでも良いのではないかと。

 具体的な検討はこれからなので、まだ何ともいえない部分はあるのですが、


・先行整備区間として、従業員数が多い本田技研までをルートに含めるのかどうか
・運行頻度はどうか
・使用車両のグレードや収容力はどうか
・運行速度と所要時間はどうか


 ……などによって、クルマ通勤から転換する人はさらに増えるものと思います。
 また、LRTのサービスレベルが高ければ沿線開発が進みますので、それに伴って利用者も増加していくものと見ています。


▲ 公共交通は、良質なサービスレベルを提供できると、利用者が大幅に増加します。福井では新型車両「F1000形」を1編成導入した効果、パーク&ライド推進効果もあって、利用者が8.3%増加しました。(クリックすると拡大画像を表示します)

 市は今後も沿線の他の企業の従業員や、沿線住民にも利用意向やクルマからの乗り換えなどについてヒアリングを行っていくとのことです。


 2001年に実施した「LRT利用に関する意識調査」によると、JR宇都宮駅東口~宇都宮テクノポリスセンター間(約12km)の需要予測は「往復で13,740人/日」。

 今回市が出した試算をベースに、まだ市が盛り込んでいない需要がある点、2001年当時にはなかった芳賀工業団地までの一体整備が盛り込まれることになった点を考慮すると、「13,740人」を超える需要があると考えて良いのではないかと思います。


【当ブログの宇都宮LRT関連記事】

【特集:宇都宮LRT】下野新聞の連載記事「LRTを問う」について
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「LRTを問う」第3回いわゆる「採算性」の問題(下野新聞 2012年10月29日)について
「LRTを問う」第4回支援:国、県は市の計画待ち(下野新聞 2012年10月30日)について
「LRTを問う」第5回BRT:コスト安いが課題も(下野新聞 2012年10月31日)について
「LRTを問う」第6回議論:市は「受益」示しきれず(下野新聞 2012年11月1日)について
「LRTを問う」第7回連合栃木の主張(下野新聞 2012年11月2日)について
「LRTを問う」第8回筑波大大学院・谷口守教授へのインタビュー(下野新聞 2012年11月3日)について

朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編都市間競争に生き残れるのか(朝日新聞 2012年11月6日)について

建設費などの具体的なデータについて(2012年11月17日掲載)

佐藤市政3期目に、LRT導入への課題(2012年11月25日掲載)
課題(1)関東自動車との調整(2012年11月25日掲載)
課題(2)運行主体の決定(2012年11月25日掲載)
課題(3)市民への周知継続(2012年11月25日掲載)

とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その1)(2013年3月3日掲載)
とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)(2013年3月3日掲載)

100億円を超える基金の行方(2013年6月19日掲載)

「東側」は最低限「9,089人/日」利用と試算(2013年11月21日掲載)

JR宇都宮駅東口~本田技研北門までの全ルート案提示(2013年12月18日掲載)


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【宇都宮LRT】100億円を超える基金の行方

「清原工業団地を造成・売却した際の売却益は、清原のために使ってほしい」

 1984年から4期に渡って栃木県知事を務めた渡辺文雄氏は、かつてこのように語っていたそうです。
 もっと具体的にいえば、「陸の孤島」で慢性的な渋滞に苦しんでいた清原地区の住民達との「公約」でもあった、宇都宮駅への軌道系公共交通機関整備に充当して欲しい……と。

 現在、売却益は約100億円残されています。


 公共交通に対する姿勢と理解が変わりつつあるとはいえ、まだまだ「下野新聞」の認識は不十分というか何というか。
 LRT整備に関連した報道では、相変わらずこのような報じ方になってしまいます。

・LRT反対派外し? 宇都宮開発組合議員選挙(下野新聞 2013年6月19日)
 http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/top/news/20130618/1069017


 「宇都宮市街地開発組合」は栃木県と宇都宮市で構成する一部事務組合で、1960年、工業団地の造成などを目的に設立されました。

 これまでに、清原サッカー場(今の県グリーンスタジアム)の整備などに関わっています。
 組合には今でも100億円を超える財政調整基金があって(以前はもっとあった)、この基金をどのように活用していくかは大きな関心事になっていました。

 知事も市長も、これまでの講演でたびたびこの基金については触れています。
 また、交通事情の抜本的な改善を求め続けている清原地区の住民達も、一刻も早いLRT整備を熱望していて、売却益を整備費として充当することに賛同しているそうです。


 鬼怒川の東側にある清原地区は、元々は「芳賀郡清原村」で、1954年に宇都宮市に編入合併されています。 
 実際に清原工業団地の分譲が始まったのは1974年になってからですが、広大な土地を工業団地にすることには地権者の間でもさまざまな考え方があっただろうことは想像に難くありません。
 一説によると、工業団地整備に合意する交換条件として、地元住民は中心市街地に向かう軌道系公共交通機関の整備を求めたとも言われています。

 清原地区と宇都宮駅を結ぶ軌道系公共交通機関は、当初はLRTの概念がまだ日本には伝わっておらず、モノレールやAGT(「ニューシャトル」や「ゆりかもめ」のようなもの)が検討されていたものと思います。
 しかし、いずれも整備費は高額で、AGTは1kmあたり80~100億円、モノレールは1kmあたり100~120億円ですし、当時は上下分離方式もないご時世ですから、とてもとても早期整備は望めない状況だったと思います。

 その後、海外からLRTの成功事例が伝わってきて、ここでやっとLRTが具体的かつ現実的な有力候補になります。
 路面レベルを走るので乗降がしやすい点や、整備費が1kmあたり20~25億円と他の新交通システムよりかなり割安であること、まちづくりにリンクした交通機関であることなどが評価されたのは、当然だといえます。

 後にLRTから既存鉄道へ乗り入れるトラムトレインが実現可能であること、公設民営による上下分離方式を導入可能であることなど、良い材料が加わっていきました。


 宇都宮市の東にある芳賀町、市貝町、さらには茂木町の3町長が、昨秋の宇都宮市長選前に「LRTの早期整備を」と異例の要望を出した際、芳賀町の町長は「宇都宮テクノポリスセンターまで軌道を敷設してもらえれば、後は我々が東に軌道を延ばして真岡鐵道に結節させる」とまで語ったと報じられました。
 さらには「上三川町(かみのかわまち)にも声を掛けようか」という話まで出ていたと報じられています。

 真岡鐵道に結節して、宇都宮駅~茂木駅(さらには「ツインリンクもてぎ」)まで1本の列車で直通できるようになれば、過疎化に苦しむ芳賀地域にとっては抜本的な変革がもたらされる可能性があります。

 また、いつになるか、どういうルートになるかはまだまだ紆余曲折があるでしょうが、現時点では軌道系交通機関がない上三川町(宇都宮市との境界付近に大規模な郊外型ショッピングエリアと、多数の従業員が通勤する日産の工場があります)と宇都宮駅が直結することになれば、こちらも大きな波及効果があります。

 宇都宮から上三川へ伸びる路線ができれば、当然その東側にある真岡市も黙ってはいないでしょう。
 鬼怒川を渡河する必要はありますが、「真岡まで!」という動きが出てくるのは自然な流れになると思いますし、そうなれば下館駅まで直通する列車が設定される可能性も出てきます。


 宇都宮のLRT計画は、実は単に宇都宮市内だけの問題ではありません。

 市内から清原工業団地や芳賀工業団地などに通勤する7万人の移動をどうするか。
 周辺エリアから宇都宮市内に通勤・通学・買い物に行く人達の移動をどうするか。
 限界に達している路線バスネットワークの効率化・活性化をどうするか。
 伸び悩んでいる東武宇都宮線、JR日光線を今後どうするか。
 過疎化に悩む栃木県の県東地域の活性化をどうするか。

 このような視点から、投資効果や波及効果をトータルで考えていかないといけない問題でもあります。 



 ともあれ、昨秋の市長選で「LRT導入」を明示し、LRTを含む公共交通ネットワーク拡充を公約に掲げた現職が大差で当選したことで、「潮目は変わった」のだと感じることが多くなってきました。

 まだネガティブな動きは出るのだろうと思いますが、少なくとも報道機関は公共交通が果たす役割について、さらに、もっと、しっかり勉強していただきたいと思います。
 また、何か懸念材料があるのだとしても、殊更対立を煽るような表層的な報道からは卒業して、課題があるならどう解決したら良いのか、こんな方法もあるのではないか……といった、未来指向型の有意義な報じ方にシフトしていただいきたいものだと思っています。


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【宇都宮LRT】とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)

【宇都宮LRT】とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その2)


 2013年2月26日(火)、「とちぎテレビ」でインタビュー特番「100年後にも誇れるまちづくりを ~佐藤栄一宇都宮市長に聞く~」が放映されました。

 まとめ記事「その1」に続き、「その2」です。


■財政面について

 富山の場合は「お団子と串」ネットワークを掲げ、駅やバス停を中心にした「お団子」を、「串」となる公共交通でつなぐ方針。
 宇都宮の場合は、東西基幹交通としてLRTを導入してバスや地域内交通を結節する「魚の骨ネットワーク」。基幹交通による「背骨」と、市内各地のコミュニティを結ぶ「小骨」を連携させる「ネットワーク型コンパクトシティ」によるまちづくりで拠点を結ぶことになる。

 宇都宮では、LRTは完全に新規導入となる。
 財政面の不安を抱く人もいて、数字が一人歩きしている面があるが、現在市が検討しているルート約15km(桜通十文字付近~宇都宮テクノポリスセンター)の総工費は383億円。
 383億円の内、1/2は国が、1/4は県が、残り1/4を市が負担。
 仮に市の負担が約100億円になるとしても、運営も含めて宇都宮の財政の身の丈の中で十分賄える。


■宇都宮は数々の大型事業を経験している

 宇都宮市は従来も100億円を超える公共事業は度々実施してきた。
 道路建設にも相当な金額がかかっている。

 大型公共事業の一例としては、たとえばゴミ焼却施設「クリーンパーク茂原」は総工費約280億円かかっていて、市の負担は200億円。
 このように、100億円を超える事業は今までもやってきたし、それで市が財政破綻することもなかった。

 宇都宮の財政は健全で、今後も良くなっていくし市債も減らしていく。
 良い条件を保ちながら、より大きな投資をしていくための事業だということをご理解いただきたい。


■「バスで十分」?

 それでも「バスで十分」との声もある。
 現在3社がバスを運行しているが、バスは赤字路線が増えていて、民間事業なので廃止の危機も。
 バスがなくなると困るので、バス購入も含めて国・県・市が毎年1億円の赤字補填を行っている。
 公共交通は必要なので、地域内交通も含めてある程度整理して、効率性を上げていくためにも、LRTが必要になってくる。
 もちろんバスも便利で必要なので、バスも増やしていく。バス路線がない公共交通空白地域への路線新設を行っていく。
 東西基幹ルートにLRTを導入することは必須で、バスや地域内交通、既存鉄道との結節を強化することで、公共交通を使いやすくしていく。


■寝たきりのお年寄りを減らす

 今後の高齢化社会を見据え、医療費や介護費の割合が歳出の中でどんどん増大している。
 今後は2人に1人がお年寄りを支える時代になるが、せめて宇都宮では寝たきりを減らす方針。
 そのために、自力で出歩けやすくするために公共交通を充実させて健康寿命を高めていく。


■公共交通を利用しやすくするための工夫

 LRTも単体で整備するのではなく、バスや地域内交通などとトータルで整備して利用者を増やし、料金も下げていく。
 ゆくゆくは市域内の全ての公共交通は1枚のICカードで乗り降りできるようにして、利便性を高める。
 乗り降りも早くなるので定時運行性を高めることもできるし、子ども割引も可能だし、定期券化することも可能。

キハ40系(JR烏山線)211系(JR宇都宮線)E233系(JR宇都宮線)
▲ JR宇都宮駅には東北新幹線、東北本線(宇都宮線)、日光線、烏山線が発着。今後の課題は、駅から先の移動手段をいかに便利で分かりやすくできるか、市域全体をカバーするネットワークを構築できるか、です。(クリックすると拡大画像を表示します)


■LRT導入を待ち望む道場宿の自治会長の話

 LRT導入を待ち望む道場宿の自治会長の声を紹介。

 クルマのありがたさは皆分かっているが、クルマが利用できない人達の移動の問題が深刻。
 専用軌道を時間通りに低廉運賃で乗れるLRTを早期整備し、交通弱者の足を確保したいと望んでいる。
 お年寄りや子ども、学生など、交通弱者といわれる人達の移動手段を確保したい。
 清原地区は競技場など人が集まる施設がたくさんあるが、クルマしか使えないし、駐車場がないと困ってしまう。
 早くLRT整備をして皆さんが移動に困らないようになれば、この地域はもっともっと発展していくと思う。


■中心街の声

 中心街でも早く導入してほしいという声が多い。

「待たずに混まないで乗れる公共交通で行きたい」
「早くできないかなとわくわくしている」
「ただ反対するのではなく、投資する以上は投資効果を最大化して、宇都宮の活性化のためになれば良いのではないか」
「環境に優しいのが最大あのメリット。観光客を呼び寄せるのに最適」

8000系(東武宇都宮線)
▲ JR宇都宮駅と東武宇都宮駅をつなぐ、分かりやすく便利な公共交通機関の整備は喫緊の課題です。LRTを西口まで整備する際、東武宇都宮線への乗り入れも有力な検討課題になるのでは。(クリックすると拡大画像を表示します)


■清原地区は宇都宮市の稼ぎ頭

 公共交通が充実すると、大渋滞で苦しむ清原工業団地(宇都宮の法人税収の22%を上げている)にもメリットが多い。
 清原工業団地からは早期LRT導入を求める声が強い。
 芳賀工業団地 にも多くの人が通っている。
 清原・芳賀を合わせると、宇都宮から通勤している人の数は「7万人」もいる。
 いつまでも研究・生産活動を続けてもらうためにも、LRTなど公共交通の充実させ、通勤しやすい環境整備が不可欠。

 公共交通ネットワークが整備されると観光客が増え、沿線の都市開発も進み、住宅や商業施設などを集めやすくなる。
 LRTは宇都宮の身の丈の中で十分整備できる。


■「選ばれる街」になるために必要な施策

 宇都宮は東京から近く、新幹線が通ったことで成長した。
 ところが、今後北海道新幹線が開通すると、列車の速達化のために途中駅の通過が増えていくだろう。
 そのとき、宇都宮が通過駅になってしまったら、交流人口は減ってしまうだろう。
 北海道新幹線開業時、宇都宮が停車駅に「選ばれる」かどうかは、今後の方策次第。日本を代表する主要都市に宇都宮が選ばれるようにしていきたい。

 平成30年頃までには、LRT、バス、地域内交通などによるネットワークを整備して都市の魅力を高めていきたい。
 全国の中で生き残れるまちの中に宇都宮も入っていく。
 市民が安心して住み続け、働き続けることができる、行政も安定した税収の中で新しいサービスを提供し続けることができるようにしていきたい。


■市民へのメッセージ

 人口減少、超高齢化社会を迎えていく中、宇都宮が100年先も持続可能なまちづくりをしていく。
 市民の皆さんにもさまざまなアイディアを出していただきたき、宇都宮が発展していけるにしていきたい。


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【宇都宮LRT】とちテレ、市長インタビュー特番を放映(その1)

 2013年2月26日(火)、「とちぎテレビ」でインタビュー特番「100年後にも誇れるまちづくりを ~佐藤栄一宇都宮市長に聞く~」が放映されました。

 昨秋の市長選では、対立候補が「LRT反対」を最大の公約に掲げました。
 現職は「ネットワーク型コンパクトシティ」実現に向けて地域内交通の拡充などを進めていて、東西基幹交通としてLRTを導入することが最適だと繰り返し説明。選挙戦でも東西基幹交通にLRTを導入し、路線バス再編やデマンド交通拡充による公共交通拡充を最大の公約に掲げました。

 その結果、LRT導入を掲げる現職の佐藤栄一氏が圧倒的大差で勝利。
 佐藤氏はこれまでの選挙でも公共交通拡充は公約に掲げていましたが、選挙公約で「LRT導入」と明言したのは今回が初めて。
 LRT導入が最大の争点となった選挙で、導入を明言した候補が圧勝した意味は重いものがあります。


 今回の特番は、3期目に突入した佐藤栄一市長に対するインタビュー形式で番組が進行。
 今後宇都宮が持続的に発展していくために必要な政策などについて、佐藤市長が説明しました。

 今後の宇都宮市の今後の取り組みは、宇都宮市や栃木県だけにとどまらず、北関東一円、全国の地方都市の将来をも占う極めて重要かつ先進的なものです。

 本ブログでは、この番組を視聴できない方のために、番組中の発言内容をまとめ記事をご紹介します。

 (※このまとめ記事は、前編の「その1」に続き、後編の「その2」に続きます)

JR宇都宮駅西口JR宇都宮駅西口JR宇都宮駅西口
▲ JR宇都宮駅の西口。北関東最大の都市・宇都宮の取り組みは、日本の地方都市の今後を大きく変えるきっかけになると注目を集めています。(クリックすると拡大画像を表示します)。


■「選ばれる街」になるために

 これまでの宇都宮市は、道路がどんどん整備され、新幹線もできた。
 今後は宇都宮が「選ばれる街」になっていくための方法が大切。

 ここ数年では中心市街地での「クリテリウム」を実施し、話題になっている。
 餃子を活かしたまちおこしも活発に実施。交流人口が増加している。

 行政も民間同様「稼げる」ことが重要。
 人口が増え、税収が増えることが重要で、その中で民間企業にも稼いでもらう。行財政改革は着実に進み、これからも市債残高を減らしていく。


■小さな自治体で大きなサービス

 他都市との比較では、宇都宮市は全国で2番目に市民一人あたりの市債残高が少なく、職員数も減らしている(7年間で約600人減)。
 市債残高は、平成24年9月時点で市民1人あたり約25万円で、他の50万人以上の中核市の中では全国で2番目に少ない。
 平成24年5月の人口1万人あたりの市職員の数は、66.8人。50万以上の中核市の中では全国2番目に少ない。


■宇都宮市の今後の課題

 宇都宮の今後の課題について。普段に行財政改革を続けつつ、企業が設備投資を行うのと同様に、新たな投資を進めていく。
 企業でも売り上げを上げようと思ったときには、ラインを増やして生産を増加させたり、新商品を開発して販路を拡大していく。
 宇都宮市も同様に、教育、環境、高齢化社会対応、危機管理など「安全で安心なまちづくり」のために投資を行っていく。
 限りある財政の中で、まちづくりは選択と集中が重要で、ネットワーク型コンパクトシティの形成が重要。

 宇都宮は416平方kmあるが、全部を開発するのではなく、既に人が住んでいる地域に投資を集約していく。
 市内各地に日常生活に困らないコミュニティをそれぞれ集約し、コミュニティ内は地域内交通で移動しやすくする。
 他のコミュニティには幹線軸となる公共交通を整備して、相互の行き来を便利にしていく。


■「SMAPなまち」

 SMAPのように、宇都宮の各地域がそれぞれ機能しつつ、まとまっても輝くまちづくりが重要。
 SMAPのメンバーが単独でもグループでも輝いているように、宇都宮の各コミュニティも、それぞれが単独でも輝きつつ、他のコミュニティと連携することでさらに輝きを増していく。


■7つのビジョン

 市長が掲げる「7つのビジョン」。

(1)都市機能を大きく前進、安心・安全の住み良さを
(2)都市農業は今後も産業の柱、食文化・健康、自然環境の礎
(3)健康寿命を伸ばし、自律した生活と老後の安心を
(4)地域内交通・バス路線・LRTによる公共交通が網羅された街作りへ
(5)人間力向上で人が輝く、子どもが伸びやかに育つ
(6)仕事を増やす、新事業を育てる、収入の向上で生活の安定を!
(7)街が面白い、街歩きが楽しい!


■最重要ビジョンは「地域内交通・バス路線・LRTによる公共交通」

 栃木県はクルマ社会で、自動車普及率は全国1位の97.8%。
 しかし、いつまでもクルマ頼りでいいのか。
 クルマが便利なのは当然だし、今後もクルマ利用に配慮した施策は行うが、従来手薄だった公共交通の拡充を今後は重視し、2本柱でやっていく。

 従来の宇都宮にとっての弱点だった東西基幹ルートにLRTを整備して、南北方向の鉄道と結節するほか、現状ではJR宇都宮駅に集中しているバスの再編を進めていく。

 「魚の骨ネットワーク」。

 背骨にあたる部分をLRTとし、小骨の区間をバスが担当する。


■先進事例・富山のレポート

 LRTについて、富山市の現状をレポート。

 富山市は人口42万人。中核都市の指定を受けている。 富山駅前に「ポートラム」が発着。オシャレな車両。大人200円の均一運賃。ICカード利用だと170円。15分おきのパターンダイヤで、待たずに乗れる。

 既存の地方路線を活用し、中心市街地では新たに道路に軌道を設置。ホームと車両の段差がなく、車内もフラット。加速が滑らか、窓が大きくて開放感がある。電停ではフィーダーバスに短距離でスムーズに乗り換え可能。電停は駐輪場が完備し、緩やかなスロープで乗車可。

 富山の「ポートラム」は日中でも利用が多く、周辺道路が渋滞するし、時間通りに走り運転本数も多いのLRTが便利との声多数。
 富山市におけるLRT導入は、コンパクトシティ実現のための手段だった。


■富山市役所でのインタビュー

 富山は平坦な地形、クルマが多く道路整備率が高く、市街地が拡散したことなど、宇都宮と共通項が多い。
 クルマ保有率が高く、一戸建て志向が強いため、市街地が拡散してしまった。

 富山のコンパクトシティの考え方は、市の中心に市街地を集約するのではなく、「お団子と串」の都市構造。
 既存の駅周辺やバス停周辺を「お団子」として、「串」となる鉄道やLRT、バスなど、便利な公共交通でつなげていく。
 富山市は県庁所在地の中で中心市街地の人口密度が最も低い都市になってしまった。
中心市街地の衰退、クルマを使えない人に住みにくい街になってしまった。

 今後労働者の人口が減少して税収が減ると、富山市の財政力が低下する懸念が強い。
 市街地が拡散すると、ゴミの収集や下水道の維持管理など、行政コストがかさんでくる。行政コストは税金でまかわれるため、行政コストが増大すれば、その分住民へのサービス水準が低下してしまう。
 また、中心部の衰退、人口の拡散、公共交通の衰退は、将来的にもっと深刻になっていくことが予想される。

 そのため、コンパクトシティと集約型のまちづくりが必要だった。


■都市部に住んでもらうために

 富山市では「誘導的施策」として

(1)公共交通の活性化
(2)中心市街地の活性化
(3)居住推進の補助事業

 を実施。

 (3)の補助事業は、中心市街地で一戸建てを建設したりマンションを購入すると、最大50万円を補助するというもの。特に公共交通沿線については、郊外から公共交通沿線に移住するとさらに10万円上乗せ補助を出すなど、「お団子」への誘導を進めている。

 誘導的施策の一つとして導入したLRTは、JR時代に比べて運転本数を数倍に増やしサービスレベルを向上させた結果、利用者が倍増。
 JR時代は2200人→LRT転換後は4800人に。

 高齢者の移動が活発化した。まちづくりと福祉の一体化。
 高齢者はLRTができて外出する機会が増えた。
 従来は外出を控えていた高齢者が積極的に外出するようになるなど、公共交通の充実が結果的に福祉にも役立っている。


■LRT沿線でない市民も高評価

 「ポートラム」の沿線ではない市の南部の住民も、「ポートラム」整備が「良かった」と評価。
 おそらく、次は自分の地域の公共交通が活性化するとの期待感がある。
 街の都市基盤としてLRT整備・維持を行っていくという富山市の強い思いが理解された。

 富山市では住民がLRTの価値を認識し、今後のまちづくりに必要不可欠なものだと理解している。
 地元企業がスポンサーになって電停にデザイン壁を設けたり、企業や個人が出資したベンチが出資者のプレート付きで設置されている。

 プレートの一つには、こんな文言が。

 「LRTは街を楽しくします」


 (このまとめ記事は、後編の「その2」に続きます)


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【特集:宇都宮LRT】課題(3)市民への周知継続

先に行われた宇都宮市長選挙は、2期8年を手堅く務めてきた佐藤栄一氏が大差で当選しました。LRT導入を公約に掲げた佐藤氏が圧勝したことにより、同氏が掲げた「ネットワーク型コンパクトシティ」を実現するため、その東西方向の軸となるLRT導入計画が大きく前進します。

・2012とちぎ宇都宮市長選 LRT実現 待ったなし 佐藤氏3選 「高齢化備え」奏功(東京新聞 2012年11月19日)
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20121119/CK2012111902000154.html


 今後の課題としては、


(1)市内最大のバス事業者「関東自動車」との調整
(2)LRT運行主体の決定
(3)市民への周知継続


 が挙げられます。

 前回の【課題(2)】運行主体の決定に続き、3つめの課題である「市民への周知継続」について。



【課題(3)】市民への周知継続

 海外でLRT導入と鉄道・バスなどとの有機的な連携を実現し、市域内公共交通充実によるまちづくりに成功している諸都市でも、それぞれの国における「先進事例」(つまり「前例がない」)では、住民の理解を得るまでにそれなりに労苦が伴いました。


▲ 「ナントの勅令」が発布されたフランス・ナントのLRT。1958年に路面電車を廃止して以降はバス頼りだったものの限界があり、1981年に地下鉄や連接トロリーバスと比較検討した上でLRT導入を決定。LRTやバスなど市内交通は「ナント都市域交通公社」が一括運行。

 上の動画はフランス・ナントのLRTとバスが題材ですが、ここはかつて路面電車が走っていた都市であるために、LRTに対しても「路面電車なんて時代遅れだ」という曲解が根強かっただろうことは想像に難くありません。
 そこでナント市は、宇都宮市が行っているのと同様、市民向けにLRTの魅力やどうやって施工するかなどを記載したリーフレットを作成して周知活動を展開しました。
 それでもおそらく、市民の少なくない割合が懐疑的であったり、反対したはずです。
 しかし今、LRT導入が失敗だったと感じる市民はほとんどいないのではないかと思います。


 公共交通の重要性については、各種アンケート結果を見ても明らかなのですが、だいたい8割方の人が「公共交通は重要」だと考えているようで、公的支援拡充についてもおおむね理解が得られていると判断して良い状況ではあります。
 しかし、いざ具体的な計画が明らかになると、初期投資額の大きさだけが問題視され、なかなか計画が進まないということが起こりがちです。

 漠然とした意識の中では「公共交通は重要」、でも具体的な話になると「多額の税金を注入するのは反対」では、いつになっても話が進みません。
 市民の意見は十人十色で、全ての市民が100%満足するような政策など最初から存在しないのです。
 それに、さまざまな意見を全て聞いていたのでは、行政が完全にストップしてしまいます。
 それこそ「決められない政治」です。

 そうなると、富山市の森市長のようにLRT導入を公約した市長がリーダーシップを発揮して導入を推進するしか手がないということになります。
 富山の森市長は「私はLRTを導入します。私の政策が気に入らないなら次の市長選で落選させてください」と言い切ってLRTなど公共交通推進を行っています。
 今、富山市長の公共交通充実という大方針に反対する市民はほとんどいません。
 宇都宮でも同じことが言えます。


 鉄道やLRTなど軌道系の公共交通機関が整備されると、沿線の付加価値は格段に向上します。

 同じ金額を投じた場合、道路と軌道系交通機関では、もたらすメリットに格段の違いがあるのです。
 軌道系交通機関の長所である定時運行性と速達性の高さ、輸送力の大きさ、まちづくりや不動産価値にも直結する将来確実性の高さなど、道路だけでは到底生み出すことができない底力を軌道系交通機関は秘めています。
 (だからこそ、各国でLRT導入が進んでいるわけです)

 普段当たり前のように利用している4車線道路が、実は1kmあたり25億円以上かかっている。
 新しく立体交差ができて便利になったけど、実はそこだけで50億円以上かかっている。
 国道バイパスの高架区間が開通して信号待ちが解消されたけど、1kmあたり100億円かかっている。
 「テクノ通り」の整備には1km38億円かかった。
 「北道路」は1km100億円を要した。
 「大通り」の拡幅には1km90~100億円かかる。


 それらに投じた税金と比較して、LRT整備が高額といえるかどうか。
 運賃収入で整備費を回収できるLRTに対して、道路は一切収入を得ることができないのだから、それこそ「赤字」の垂れ流しではないか……。

 コスト面を論拠にLRT導入に懐疑的なご意見をお持ちの方は、道路建設にどれほど「莫大な税金」が投入されているか、その点をあまりに軽視している(無視している)のではないだろうか……と、感じることが多いのです。
 もちろん道路も重要な社会インフラなのですが、そればかりに投資を続けても、根本的な道路交通量が減らない限り渋滞はなくならないので、道路だけに投資を続けるのはあまり好ましいこととは言えません。

 抜本的な道路交通量を減らすためには、利便性が高い公共交通ネットワークが必要ですし、宇都宮の場合は少なくとも東西基幹交通に関してはLRT導入が不可欠です(断言します)。
 今は上下分離方式が導入できますので、LRTも道路建設と同じく、インフラ部分(軌道・施設・車両)は公的に整備し、運行主体(たぶん、市やバス会社などが共同出資する組織になる)は列車の運行だけ行います。
 この方式であれば、インフラ整備費を負担しなくて済むため、かなり安い運賃設定が可能、しかも運転本数を多く設定できます。

 アメリカの先進事例都市の一つ・ポートランド(オレゴン州)では、LRTもバスも同じ運行組織が一括して行っていて、


・1時間券……2ドル(1ドル80円換算で160円)
・1日券……5ドル(1ドル80円換算で400円)


 で、LRTもバスも乗り放題です。
 この価格設定は、インフラ整備だけでなく、運行経費のある程度を公的に賄っているから実現できるものですが、たとえ税金を投入して運行を支えていても、利便性が高い公共交通という質の高い行政サービスを提供することで、都市の魅力が増して人・物・金が集まればトータルでは大きく黒字になるため、ほとんどの市民が市の方針に納得しているわけです。
 (それこそ本来行政が行うべき市民サービスなのです)

 宇都宮の場合、どうもLRTを導入するかどうかの「入口の感情論」だけで終わっているケースが多いようです。
 しかし今きちんと軌道系交通機関を導入し、公共交通網を充実して市街地を集約する方向にシフトしないと、今後さらに市街地拡散が進んでしまう(=市の維持管理費が増大し、さらに効率が悪い都市構造になってしまう)ことが明白である以上、重要なのはLRT導入の是非ではありません。
 重要なのは、LRTを含めた市域内の公共交通の利便性を利用者視点でどう高めていけるかということなのです。

 公共事業は、短期的には投資を回収しきれるものではありませんから、評価を行う場合は中長期的な視野に立った総合的な評価を行う必要があります。


・走行時間の短縮効果
・走行費用の減少効果
・交通事故の減少効果


 といった費用便益分析だけでなく、


・雇用の創出効果
・消費の拡大効果


 といった社会的波及効果も勘案する必要があります。


 参考までに、2011年11月に行われた福田 富一(とみかず)知事の講演によると、1日の利用者数が片道16,500人/往復33,000人の場合、LRTの維持管理費は約15億円/年に対して、運賃収入は約20億円/年との試算が出ています。
 運賃設定については言及がなかったのですが、確か運賃は150円という想定があったので、それに準拠しているのだろうと思います。
 運行頻度は、ラッシュ時には4分ごと、日中や夜間でも6分ごとを想定しています。
 また、この試算には車内や停留所などの広告収益は含んでいないものと思います。

 参考ついでに、以下の数値を記しておきます。


【公共交通機関の建設費】
・つくばエクスプレス(複線・全線高架か地下)は1kmあたり約142億円
・地下鉄(複線)は1km150~300億円
・モノレールやAGT(複線)は1km約100億円
・名古屋のガイドウェイバス(複線)は1km約50億円
・LRT(複線)は地平レベル中心で1kmあたり約15億円、部分的な高架区間を含むと1km約25億円(←宇都宮の場合はこれ)

【道路の建設費】
・4車線道路は地平レベル中心の場合は1kmあたり25億円以上
・橋や高架道路は1kmあたり100~240億円
・「テクノ通り」の整備は1km38億円
・「北道路」は1km100億円
・「大通り」の拡幅は1km90~100億円



 ちなみに、「つくばエクスプレス(TX)」は全長58.3kmの全線高架か地下の複線電化路線です。
 最高運転速度は130km/h、秋葉原~つくば間を最速45分で結びます。
 総建設費は「約8,400億円」(当初見込みより約1,000億円圧縮)で、開業前までは「赤字必至」「どうせ誰も乗らない」等の懐疑論が主流でした。

 2005年に開業し、現在開業から約7年経過しています。
 1日あたりの利用者数は、次のように推移しています。


・2005年度……157,000人/日
・2006年度……195,300人/日
・2007年度……234,200人/日
・2008年度……257,600人/日
・2009年度……270,300人/日
・2010年度……283,000人/日
・2011年度……290,000人/日
 (2011年度は、前年度末に発生した東日本大震災後の混乱が影響し、一時利用客数が伸びなかった時期があるため、統計上は増加ペースが鈍化しています/実際には震災後半年を経ずに元の増加ペースに戻っています)


 定時運行性・速達性が極めて高く、沿線の付加価値はうなぎ登りに上昇し、開業による経済波及効果は約26兆円超と言われています。

 宇都宮にLRTを導入する場合、建設費はTXの1/22(二十二分の一)程度ですので、導入効果も相応に縮小するとは思いますが、経済波及効果(間接的なものも含む)は数千億円規模以上になるものと考えることができます。


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【特集:宇都宮LRT】課題(2)運行主体の決定

先に行われた宇都宮市長選挙は、2期8年を手堅く務めてきた佐藤栄一氏が大差で当選しました。

・2012とちぎ宇都宮市長選 LRT実現 待ったなし 佐藤氏3選 「高齢化備え」奏功(東京新聞 2012年11月19日)
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20121119/CK2012111902000154.html


 LRT導入を公約に掲げた佐藤氏が圧勝したことにより、同氏が掲げた「ネットワーク型コンパクトシティ」を実現するため、その東西方向の軸となるLRT導入計画が大きく前進します。

 今後の課題としては、


(1)市内最大のバス事業者「関東自動車」との調整
(2)LRT運行主体の決定
(3)市民への周知継続


 が挙げられます。

 前回の【課題(1)】関東自動車との調整に続き、2つめの課題である「運行主体の決定」について。


【課題(2)】運行主体の決定

 LRTを導入する場合、運行主体をどうするかは重要な問題です。
 この問題は関東自動車をはじめとするバス事業者との調整にもよりますので、現時点ではまだ未確定要素が大きいものと思います。

 インフラ整備(軌道敷設・施設建設・車両購入)は国と県の補助を受けつつ宇都宮市が行いますので、運行主体については、


(1)市とバス事業者、民間企業、市民などが共同出資する運行会社を設立して運行
(2)関東自動車が運行主体として運行
(3)関東自動車が路線バス事業を人員・設備丸ごと新たな運行主体に売却


 というのが考えられます。

 ただ、インフラ整備(軌道、停留所、関連施設、車両も)を公的資金で賄うとなれば、初期投資額を大幅に圧縮できるから……と判断して、


(4)JR東日本や東武鉄道などの鉄道事業者が運行主体として名乗りを上げる


 という可能性も出てきますが……。


▲ 米国・ポートランドのLRT「MAX」。LRT・路面電車・郊外列車・路線バスは「トライメット」が一括運行。中心市街地の幅員が狭い道路では、LRTの上下線を分離することで限られた空間をフル活用し、LRTとバスがうまく共存しています。

 関東自動車に限りませんが、地方の交通事業者にとって路線バス事業は「経営の重荷」になっています。

 端的に言えば、独立採算制が前提では「赤字」です。
 しかも、鉄道と違って専用走行空間を走らないため、定時運行性と速達性が確保できず(渋滞に巻き込まれるし、法定速度以上で走れないうえにバス停での停車時間が加わるため、マイカーの方が速達性が高くなる)、ますます利用者の路線バス離れが加速していきます。

 現状でも赤字(独立採算制が前提での「赤字」)で、将来の展望も明るくない……となれば、路線バスからは手を引いて、高い収益性が見込める高速バス事業や観光バス事業に特化する方が良いと考えるのが自然な流れです。

 関東自動車も、できれば高速バスや観光バス、企業などとの契約バスに特化して、収益性が高い事業だけで会社のスリム化を図りたいのだと思います。
 しかし、スリム化ということになると、バスの運転手さんなどの人員整理が発生してしまいます。
 会社としては、できれば人員整理はやりたくない筈で(労働問題に直結しますので)、関東自動車が路線バス事業から「撤退」という選択をしない(できない)大きな理由になっているのではないかと考えられます。

 私自身、かつてリストラ解雇や会社倒産で失職した経験があり、雇用を守ることがいかに重要かは骨身に染みて理解しています。
 宇都宮のLRT導入がスムーズに進むかどうかは、バス会社従業員の雇用機会の確保(+希望退職者の転職支援)にかかっているといっても良いのかも知れません。


 参考までに……。

 宇都宮市も市長も、これまで懇切丁寧に市民向けの説明を行っているのですが、東西基幹交通としてLRTを導入するのは、宇都宮が目指す「ネットワーク型コンパクトシティ」実現のための「手段の一つ」に過ぎません。
 LRTを1本通すだけではなく(それだけでもかなりの効果があるのですが)、鉄道・LRT・路線バス・コミュニティバス・デマンド交通との有機的な連携を図り(乗り換え・乗り継ぎをしやすくする)、クルマや自転車からの乗り換えも容易にすることになります。

 LRT導入に伴い、ある程度の路線バスについては整理・統合や運行区間の短縮が行われることになるでしょうから、その分の人員や車両に余裕が生じるはずです。
 余裕が出た人員や車両は、従来は公共交通空白地帯だったエリアへの新規路線用として振り向けることが考えられています。

 つまり、バス路線の整理・統合が行われても、バスの運転手さんの仕事はなくなるどころか、むしろ増えることになります。
 積極的にお仕事するのが嫌だという人はともかく、引き続き職務に励みたいバス関係の従業員を切り捨てるようなことにはならないわけです。


 いずれにしても、今までの日本では考えられなかったような、『プロジェクトX』級の一大変革が動き出します。
 既に富山市が行っているような諸政策を、より規模を大きくして実施していくことになるはずです。


 続いて、【課題(3)】市民への周知継続についてをご覧ください。


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【特集:宇都宮LRT】課題(1)関東自動車との調整

先に行われた宇都宮市長選挙は、2期8年を手堅く務めてきた佐藤栄一氏が当選しました。

・2012とちぎ宇都宮市長選 LRT実現 待ったなし 佐藤氏3選 「高齢化備え」奏功(東京新聞 2012年11月19日)
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20121119/CK2012111902000154.html


 前回(2008年)の選挙は、LRT反対・慎重な候補が3人対抗馬として出馬し、佐藤氏が約8万票、対抗3候補が合計で約8万票、佐藤氏の得票が約500票ほど上回りました。
 今回(2012年)の選挙は、LRT導入と公共交通ネットワーク拡充を主張する佐藤氏が10万票以上(前回比:+2万票)、「脱LRT宣言」を主張した新人候補は約4万票(前回とは候補者が異なりますが、前回比:-4万票)でした。

 ここまでLRT導入が明確な争点となった市長選で、投票率が下がったにも関わらず佐藤氏は2万票も上積みして当選しました。
 これは極めて重要な意味を持ちます。

 今後の課題としては、


(1)市内最大のバス事業者「関東自動車」との調整
(2)LRT運行主体の決定
(3)市民への周知継続


 が挙げられます。


▲ ドイツ・カッセルのトラム。カッセルはグリム童話で有名なグリム兄弟が長く暮らしていた都市で、『水曜どうでしょう』ファンにもおなじみの「メルヘン街道」の中心都市。市内交通は「カッセル交通」が一括運行。


【課題(1)】関東自動車との調整

 関東自動車との調整は、今春同社が公共交通系の投資ファンド「みちのりホールディングス」の傘下に入り、経営陣が変わったことにより状況が変化。
 現在のトップは、「市が考えるネットワーク型コンパクトシティの考え方は理解できた」として、「県や市が考える公共交通ネットワーク構築に向けて、ブレーンになりたい」とまで語っています。
 以前は「何が何でもLRT反対」というほどに態度を硬化し、一切交渉にも応じない姿勢であったわけですから、これは大きな前進です。

 「みちのりホールディングス(みちのりHD)」は、現在、


「茨城交通」(茨城県)
「関東自動車」(栃木県)
「福島交通」(福島県)
「岩手県北バス」(岩手県)


 を傘下に収めています。

 鉄道・軌道の運行経験が皆無の「関東自動車」が「みちのりHD」傘下に入ったことのメリットの一つは、グループ企業となった「茨城交通」(かつては鉄道も運行/現在はひたちなか市と共同出資した「ひたちなか海浜鉄道」の株主)と「福島交通」(現在も鉄道を運行)は鉄道運行の経験があるということです。
 具体的にいえば、宇都宮にLRTを導入し、「関東自動車」が運行主体に名を連ねる場合、運転士の訓練や鉄道・軌道の運行ノウハウ習得をグループ会社に頼ることができるということです。

 宇都宮でスムーズにLRT導入が実現できれば、「みちのりHD」にとってもビッグチャンスとなります。
 なぜなら、「茨城交通」の本丸でもある水戸でもLRT構想があり、宇都宮での導入スキームを水戸に、さらに言えば全国各地に適用できるからです。
 自治体とバス事業者が協力して、公共交通ネットワークを構築することで、バス事業者にもメリットがあることが分かれば、一気に流れが変わっていくものと思います。


 続いて、【課題(2)】運行主体の決定についてをご覧ください。


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【特集:宇都宮LRT】佐藤市政3期目に、LRT導入への課題

宇都宮市長選挙が終わり、2期8年を手堅く務めてきた佐藤栄一氏が当選しました。

・2012とちぎ宇都宮市長選 LRT実現 待ったなし 佐藤氏3選 「高齢化備え」奏功(東京新聞 2012年11月19日)
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20121119/CK2012111902000154.html

 今回佐藤氏は明確に「LRT導入」を公約に掲げての当選で、しかも投票数は(投票率が低下したにもかかわらず)


・佐藤氏……前回比で2万票増加して、10万票超
・対立候補…前回比で4万票減少して、約4万票


 と、大差をつけての圧勝。

 LRT導入を巡る不毛な感情論や、賛否そのものを問うような「入口の議論」レベルは、これでもうクリアしたと考えてよいでしょう。
 (対立候補がLRT反対、佐藤氏がLRT導入を掲げての市長選でしたから、事実上のLRT導入を巡る住民投票でもあったわけです)
 今後は具体的な導入方法&スケジュールを、スピード感を持って進めていく段階に入りました。


▲ パリでは郊外の鉄道空白地域を埋めるように複数のLRTが開業し、沿線の再開発が加速。欧米諸国ではLRTを道路や橋と同様の社会インフラとして整備。運行経費の大半を公的に賄って低廉運賃&高頻度運転で利便性を高めることで、利用者増&沿線への投資拡大を実現。損して得する手法です。


 LRT導入に向けて最大の課題は、市内最大(県下最大)のバス事業者「関東自動車」との調整と、LRTの運行主体を決めることです。
 そこで、これらの問題について、もうちょっと踏み込んで考えてみます。


【LRT導入に向けた課題について】
 詳しくは、それぞれの記事をご覧ください(下記それぞれの項目をクリックして閲覧してください)。

【課題(1)】関東自動車との調整

【課題(2)】運行主体の決定

【課題(3)】市民への周知継続


■明確な論拠となる数字を見て判断

 まちづくりのツールともなっている公共交通機関。
 適切な時期に、適切な規模の投資を行うことが、都市の将来を大きく左右します。
 そのための判断材料が具体的な数値です。



・宇都宮市の初期投資額は約380億円だが、実質的には約95億円
 (約380億円という数字には、JR宇都宮駅の2F部分を通り抜ける費用約40億円も含んでいる)
・清原工業団地の売却益が約100億円あり、清原地区の同意を得ればLRT整備に充当可能
・設備や車両などのインフラ導入費と、軌道などの維持管理費は公的に賄う「上下分離方式」を導入
・いわゆる「採算ライン」は、片道16,500人/日



 これらの数値が判断基準となるものです。

 さらにいえば、


・定時運行性、速達性、将来確実性、シンボル性が高い軌道系公共交通機関を整備すると投資誘因効果が大きく、税収増、大きな経済波及効果をもたらす
・宇都宮市の人口は約51万人、都市圏人口は約100万人で、大きなポテンシャルがある
・この規模の都市は、路線バス主体の交通網だけでは支えきれない


 ということです。


■一公共交通機関としてだけでなく、まちづくりのツールでもある

 「地方はクルマがないと生活できない」から「クルマがあればいい」という旧来の「常識」を打破できるかどうか、これは今後の日本の地方にとって大きな命題となります。
 地方、特に地方の中核都市(県庁所在地クラス)でも、一定以上に公共交通ネットワークが充実していて、なおかつ利便性が高く、クルマがなくても移動に困らない状況を創出できるかどうか、とても重要な局面に来ているといえます。
 大袈裟にいえば、今後も東京など大都市への一極集中が進んで地方は衰退する一方なのか、それとも地方が活力を取り戻して活性化に向かうのか、その分かれ目になるためです。

 私は地元だけでなく、飯能、入間、所沢、土浦、さいたま、小山などで生活した経験があります。
 経済的な問題もありますが、長年クルマは保有しておらず(現在は軽自動車を保有)、部屋探しをする条件は「駅に近いこと(遠くても徒歩20分圏内)」で、「クルマがなくてもとりあえず日常生活に困らないこと」の重要性を常々感じながら過ごしてきました。

 それだけに、現状では市域内公共交通ネットワークがあまりに弱く、せっかく有している大きなポテンシャルをほとんど活かせていない宇都宮の交通問題とまちづくりの問題を見聞きするにつけ、「もったいない!!」と感じています。

 北関東で言えば、宇都宮や水戸、つくば&土浦、高崎&前橋、小山のような中核都市であれば、東京並みとは言わないまでも、中心市街地は「待たずに乗れる」だけの運行頻度があり、十分な輸送力がある公共交通を整備し、それを最大限に活用できるようなまちづくりをセットで推進することで、大いに「化ける」可能性があるのではないかと考えます。


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【特集:宇都宮LRT】建設費などの具体的なデータについて

宇都宮市のLRT計画(正しくは、東西基幹交通としてLRTを導入しつつ路線バス再編・拡充などを行うネットワーク型コンパクトシティを目指す交通政策)は、過度なクルマ依存から脱却して、クルマがあってもなくても、通勤通学や生活にある程度困らずに済む都市にしていこう、というものです。

 宇都宮市が公表している「初期投資は約380億円」。
 この額面上の数字だけが一人歩きしてしまい、不要な誤解を生じかねない状況になっています。
 そこで、主に費用面について具体的に論拠となり得る数値を示し、LRTについて検討する際の材料にしていただけたら……ということで簡単に列挙します。

 なお、初期投資の総額は約380億円ですが、その内1/2は国が補助し、1/4は栃木県が負担する意向なので、宇都宮市の実質的な残りの1/4、つまり「約95億円」である点を改めて記しておきます。


▲ 米国ポートランド市のLRT。早送りの前面展望映像で、道路の利用方法、バスとの連携など、一通り視覚的に把握できます。


■清原工業団地の売却益が約100億円残っている

 2011年9月1日(木)に開催された「第1回 都市交通システム講演会」で宇都宮市の佐藤 栄一(えいいち)市長が財源についての重要な発言を行っています。


・宇都宮市の税収は約870億円
・その内、清原地区だけで年間115億円の法人税収入がある
・市の財政を支えている工業地帯に通勤するためのクルマが溢れて慢性的な渋滞を引き起こしている
・清原工業団地を売り出したときの売却益が約100億円残っている
・清原地区の同意を得る必要があるが、この資金をLRT整備に使うことが考えられる
 (もし、清原地区の管理する売却益全額をLRTに活用すると、宇都宮市の実質的な初期費用負担はゼロになる可能性が高い)
・清原地区の皆さんは、以前から市の中心部への交通手段はLRTが最適だと考えている
・LRTに投資しないデメリットとして、最悪進出企業の撤退→税収の減少が考えられる
・税収が減少すれば、市民サービス水準を落とさざるを得なくなる


 つまり、「清原地区は宇都宮市の生命線」であり、「自分の所には直接関係ないから」ではなくて、実は間接的に他の地区の生活にも関わってくる問題だ、ということです。
 清原地区にお住まいの皆さんはLRT開通を一日千秋の思いで待っていますし、進出している企業にも極めてメリットが大きな話になります。


▲ 宇都宮の公共交通ネットワークも、おそらくポートランドのような姿を目指していくものと思います。


■「テクノ通り」は1km38億円、複線LRTは1km約25億円(補助受けると約6.25億円)

 続いて、2011年11月18日(金)に開催された「第2回 都市交通システム講演会」で栃木県の福田 富一(とみかず)知事が「県の東西基幹交通にはLRTが最適」との講演を行った際の数字です。
 (注:知事が「県の」東西基幹交通と発言しているのは、「新県土60分構想」の一つとして、既存鉄道も利用しながら茂木~宇都宮LRT~日光を結ぶ公共交通軸を形成しようと検討しているためでしょうね)


【LRTの建設費について】
・モノレールやAGT(「ゆりかもめ」のようなゴムタイヤ式案内軌条交通システム)は1km整備するのに100億円
・名古屋のガイドウェイバスは1km整備するのに50億円かかる
・LRTは「1kmあたり約25億円」(注:国や県からの補助が出る前の段階/補助が出た後の金額は「1kmあたり約6.25億円」
・道路整備と比較すると、「テクノ通り」の整備には1km38億円、「北道路」に至っては1km100億円を要していて、「大通り」の拡幅には1km90~100億円
複線のLRT整備費は4車線道路と同程度の金額で済む(補助が出た後の金額は4車線道路の「1/4程度」


【維持管理費と運賃収入、採算ライン】
・宇都宮LRTの維持管理費が年間15億円かかるとの試算
運賃収入は年間20億円を見込む
・そのための「採算ライン」は33,000人/日(注:往復合わせての人数なので、実際にはその半分程度、16,500人/日でペイする)
 (本来、公共交通を採算性だけで論じるのは不適当であるけれども、分かりやすく説明する材料の一つとして数字を出したとのこと)
・これらの維持管理費、乗車人員と運賃収入は、清原地区~JR宇都宮駅~桜通付近までの約15kmほどを一括整備する場合のもの
 (JR宇都宮駅の2F部分を通り抜ける費用約40億円も含めた数字)
・もしJR宇都宮駅東口~清原地区を先行開業するのであれば、もっと「導入しやすい数字」になる




▲ ドイツ・ノルトハウゼンでは、低床型の連接トラムに発電用ディーゼルエンジンを搭載して、非電化の「ハルツ狭軌鉄道」(軌間1000mm)へ直通するトラムトレインを運行しています。海外では実に多彩で柔軟な導入例が多いです。


■明確な論拠となる数字を見て判断

 まちづくりのツールともなっている公共交通機関。
 適切な時期に、適切な規模の投資を行うことが、都市の将来を大きく左右します。
 そのための判断材料が、今回のような具体的な数値です。

 上記の話をまとめますと、


・宇都宮市の初期投資額は約380億円だが、実質的には約95億円
 (約380億円という数字には、JR宇都宮駅の2F部分を通り抜ける費用約40億円も含んでいる)
・清原工業団地の売却益が約100億円あり、清原地区の同意を得ればLRT整備に充当可能
・設備や車両などのインフラ導入費と、軌道などの維持管理費は公的に賄う「上下分離方式」を導入
・いわゆる「採算ライン」は、片道16,500人/日



 これらの数値が判断基準となるものです。

 さらにいえば、


・定時運行性、速達性、将来確実性、シンボル性が高い軌道系公共交通機関を整備すると投資誘因効果が大きく、税収増、大きな経済波及効果をもたらす
・宇都宮市の人口は約51万人、都市圏人口は約100万人で、大きなポテンシャルがある
・この規模の都市は、路線バス主体の交通網だけでは支えきれない


 ということです。



▲ ドイツ・マンハイムでは、一部区間でバスがトラムの専用軌道に乗り入れることができるよう工夫しています。乗り入れ区間では、トラムと路線バスが停留所を共用しています。


■一公共交通機関としてだけでなく、まちづくりのツールでもある

 「地方はクルマがないと生活できない」から「クルマがあればいい」という旧来の「常識」を打破できるかどうか、これは今後の日本の地方にとって大きな命題となります。
 地方、特に地方の中核都市(県庁所在地クラス)でも、一定以上に公共交通ネットワークが充実していて、なおかつ利便性が高く、クルマがなくても移動に困らない状況を創出できるかどうか、とても重要な局面に来ているといえます。
 大袈裟にいえば、今後も東京など大都市への一極集中が進んで地方は衰退する一方なのか、それとも地方が活力を取り戻して活性化に向かうのか、その分かれ目になるためです。

 私は地元だけでなく、飯能、入間、所沢、土浦、さいたま、小山などで生活した経験があります。
 経済的な問題もありますが、長年クルマは保有しておらず(現在は軽自動車を保有)、部屋探しをする条件は「駅に近いこと(遠くても徒歩20分圏内)」で、「クルマがなくてもとりあえず日常生活に困らないこと」の重要性を常々感じながら過ごしてきました。

 それだけに、現状では市域内公共交通ネットワークがあまりに弱く、せっかく有している大きなポテンシャルをほとんど活かせていない宇都宮の交通問題とまちづくりの問題を見聞きするにつけ、「もったいない!!」と感じています。

 北関東で言えば、宇都宮や水戸、つくば&土浦、高崎&前橋、小山のような中核都市であれば、東京並みとは言わないまでも、中心市街地は「待たずに乗れる」だけの運行頻度があり、十分な輸送力がある公共交通を整備し、それを最大限に活用できるようなまちづくりをセットで推進することで、大いに「化ける」可能性があるのではないかと考えます。


 なお、本記事はあくまでも私自身が見聞きしたことについて、感じたことや考えたことを率直に書き綴ったものであり、特定の候補者を応援したり、特定の候補者への投票を呼びかけるものではありません。

 既にLRTについてよくご存じの方はもちろん、LRTについてあまり詳しくない人・興味がなかった人にも「そうなんだ」と思ってもらえるように、国内外の先進事例や、論拠となる数値をできる限り示して説明するようにしています。


※なお、この記事にコメントをつける場合は、記事タイトル下の「CM」部分をクリックすると投稿できます。


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【特集:宇都宮LRT】朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編について

「下野新聞」の連載記事「LRTを問う」に続き、「朝日新聞」栃木版でも、宇都宮市長関連記事「宮っ子の選択・宇都宮市長選」の掲載がスタートしました。
 2012年11月6日(火)には、LRT導入を巡る諸問題を取り上げた「宮っ子の選択・宇都宮市長選/前編」(←記事にジャンプします)が掲載されました。


【前編の概要】2012年11月6日(火)掲載

■都市間競争に生き残れるのか

 2012年8月25日(金)に行われた宇都宮市の「交通まちづくり市民フォーラム」基調講演で、京都大学大学院の藤井 聡(さとし)教授は、「LRTへの投資により企業立地や人口集中で税収が増える。渋滞も減り、車を使う人にも便利になり、街に利益をもたらす」と説明した。

 宇都宮市が想定する将来の公共交通の姿は、既存鉄道・LRT・路線バスなどの「幹線」に、きめ細かな「地域内交通」が結節する状況。
 先日、市北部にある国本地域でも「くにもとふれあい号」が運行を開始。地域内交通は既に市内7地区で導入済み、2年後には14地区に増える予定だ。

 LRT導入には市民の合意が必要で、宇都宮市は昨年から市民説明会を度々開いてきた。
 試算で約380億円の大規模事業であることや、導入後も「採算が取れず」に公的支援が必要になるのでは……といった反対意見もある。

 LRTをJR宇都宮駅西口の大通りに導入すると競合関係になる可能性があるのが関東自動車(従来はLRT導入に反対していた)。
 その関東自動車の会長で、今春同社を傘下に収めた「みちのりHD」の松本順社長は、市が公共交通の総合的なまちづくりを進めることに賛意を示し、「宇都宮市と栃木県の公共交通ネットワーク構築のブレーンになりたい」と語っている。

 海外LRT事情に詳しい宇都宮大大学院の森本 章倫(あきのり)教授は、英国でバス会社と競合したまま開業したLRTが破綻した例(後述)を挙げて、「公共交通は道路や橋と同じ社会資本。バス事業者と協議し市全体の公共交通充実を考えるべき」と話す。


【前編の記事内容について思うこと】

 朝日新聞の記事は残念ながら説明不足。
 宇大の森本教授が挙げた「英国でのLRT破綻例」とは、「シェフィールド・スーパートラム」のこと。
 (注:朝日新聞の記事だけを見ると、破綻したケースがたくさんあるようにも受け取れるけど、実際に「LRTを導入したけどうまくいかなかった」のは、シェフィールドだけといって良い)


▲ 英国シェフィールドの「スーパートラム」。1994年に開業したものの、民間主導で行政のまちづくりとリンクしていなかったこと、既存バス会社との調整を行わず競合関係になってしまったこと、地形的不適合が多かったことなど、一時経営破綻にまで陥ってしまいました。

 「シェフィールド・スーパートラム」は1994年に開業しましたが、主に3つの要因で経営破綻し、競合するバス会社が買収し、運行を継続することになりました。

■要因(1)……バスの規制緩和
 英国では当時、バス事業の規制緩和が行われていて、シェフィールドでもバス会社は規制緩和によって路線網の拡充を行いましたが、LRTとの競合関係の解消は行いませんでした。

■要因(2)……地形的な不適合
 シェフィールドは起伏が激しく、どちらかというと鉄軌道には不向きな地形です。
 そこで、運行会社は100パーミル(1,000m進むと100m上る)の登坂能力を有する車両を用意したのですが、さすがに粘着式(鉄車輪だけで勾配を上り下りする方式)ではこれ以上の急勾配の上り下りは特別な装置(ラック式レール)を用いないと無理です。
 (注:日本の粘着式鉄道の最急勾配は箱根登山鉄道の80パーミルで、かつての碓氷峠は66.7パーミルでした)
 そこで、急勾配を避けて迂回コースを多用したのですが、結果的に運行距離が伸びてしまい、鉄軌道より勾配に強いので最短距離を運行でき、所要時間も短い路線バスに乗客が流れてしまったのです。

■要因(3)……行政と民間の調整不足
 LRT導入に成功した都市では、行政が民間ときちんと協議を行ったうえで、まちづくりや交通体系の見直しが行われました。
 しかし、シェフィールドのLRT導入は民間主導で推し進められ、まちづくりとうまくリンクしていなかったので、上記(1)(2)と相まって経営破綻に陥ってしまったのでした。

 このことは「シェフィールドの躓き(つまづき)」と呼ばれ、英国におけるLRT導入は、2004年までの約10年間行われなくなるという「冬の時代」に突入してしまいました。
 しかし、「シェフィールド・スーパートラム」の失敗は、数多くの教訓をもたらしました。
 その後、英国ではシェフィールドでの教訓を踏まえて、まちづくりとリンクしたLRT計画が練られるようになり、バーミンガム、ロンドン郊外のクロイドン、ノッティンガムと、次々にLRTが開業しています。

 なお、シェフィールド・スーパートラムは失敗例と言いつつも、年間1,300万人以上(約3.6万人/日)が利用しています。
 また、今から15年ほど前の導入当時は、日本と同様、公共交通に対する公的支援が不十分だった点も考慮する必要はあるでしょうね。


▲ ロンドン近郊・クロイドンのLRT。「シェフィールドの躓き(つまづき)」で10年ほど英国でのLRT導入機運は萎んでいたものの、行政も参画してまちづくりの中で「ちゃんとした検討」を行った上で、まちづくりの一環として導入するようになったため、現在は各地で導入が相次いでいます。

 シェフィールドでの事例は、


・行政がLRT化断念を決定した岐阜の路面電車の廃止事例
・実験的要素が強く問題山積のフランス・ナンシーのゴムタイヤトラム


 と並び、LRT導入を成功させるために貴重な「戦訓」を多数示しています。


▲ フランス・ナンシーのゴムタイヤトラム。ナンシーが採用したのは「TVR」方式で、車体中央の案内車輪が走行路中央に敷かれた案内軌条を捉えて走ります。トロリーバスのインフラを流用できる利点はあるものの、技術的には未成熟で、ナンシーはLRTへの転換が決まっています。

 これらの教訓から、宇都宮でLRTを導入してネットワーク型コンパクトシティを実現するには、


(1)市がまちづくりと交通体系について十分検討し、
(2)バス事業者と競合関係にならないよう調整し、
(3)適切なルート設定を行う必要がある、


 ……ということがいえます。
 (宇都宮の場合、シェフィールドのような高低差がある地形ではないので、地表を走る軌道系交通機関にとって障害になる「勾配の問題」は考慮しなくて良いです)


 なお、本記事はあくまでも私自身が見聞きしたことについて、感じたことや考えたことを率直に書き綴ったものであり、特定の候補者を応援したり、特定の候補者への投票を呼びかけるものではありません。

 記載内容は、私自身の「ツィッター」でのつぶやきがベースです。
 既にLRTについてよくご存じの方はもちろん、LRTについてあまり詳しくない人・興味がなかった人にも「そうなんだ」と思ってもらえるように、国内外の先進事例や、論拠となる数値をできる限り示して説明するようにしています。


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【特集:宇都宮LRT】下野新聞「LRTを問う」第8回について

【第8回の概要】2012年11月3日(土)掲載

■筑波大大学院・谷口守教授へのインタビュー

 連載最終回は、公共交通の視点から国内外のまちづくりを研究する筑波大学大学院の谷口守教授へのインタビュー。
 (注:連載最終回に谷口教授の話を持ってきたという点は、これまでの下野新聞の姿勢を考えると驚嘆に値する)

 高度成長期以降、クルマ依存の進行(悪化)と路面電車廃止が相次いだが、高度成長が終わり高齢者など交通弱者が増加、交通とまちづくりを共に考える世の中になった。
 うまく交通とまちづくりの構造転換を実現できた都市はLRTを導入しているため、LRTに注目が集まっている。

 LRTがBRTより優位なのは、基本的にLRTの方がまちづくりにリンクするから。
 ただし「便利なLRT」を整備することが重要で、運行頻度が30分ごとと低かったり、運賃が高いとか、使いにくいとかではダメだ。
 (注:やるなら本格的に整備して、質の高いサービスを提供することが重要だということ)

 ドイツのカールスルーエは人口20万都市だが、LRTは総延長120kmの区間で運転している。
 どんな場所でも10分間隔で運行しているから乗降客も多い。
 運賃収入で賄っているのは経費の6〜7割で、残りは公的資金を投入している。


▲ ドイツのカールスルーエのトラム。路面軌道を走っていた列車がそのまま鉄道路線に乗り入れる「トラムトレイン」の先進都市です(停留所のバリアフリー対策はまだ改善の余地があるようですね)。宇都宮にLRT導入が実現した場合、LRT区間から東武宇都宮線やJR日光線、JR烏山線、JR宇都宮線に直通するような感じです。

 導入反対派は赤字を問題視するが、サービス水準が悪ければ利用者が増えず、赤字になるのは当然。
 また、赤字を減らそうと運行頻度を下げれば余計赤字体質になっていく点にも注意が必要だ。
 高度成長期以降、過剰に独立採算を求める論理があるが、今後は地域の足をどう支えるかの観点が重要となる。

 全国でLRT導入が足踏み状態なのは、首長の影響が大きい。
 富山市では市長が「私の独断でやります」と宣言してローカル線をLRT転換し、「それが間違いなら選挙で落として」という姿勢だった。
 日本ではまだこういう首長が少ない。

 谷口教授から宇都宮へのアドバイス。
 「札幌、仙台に次いで宇都宮があり、周辺都市より『ワンランク上』の都市なのに、市民の足=公共交通が弱い。公共交通は都市の『格』を表す。街なかに鉄軌道があってしかるべきだと思う」


【第8回の記事内容について思うこと】

 筑波大の谷口教授が指摘するように、宇都宮の弱点は「市域内の公共交通が弱い」ことです。
 東北新幹線やJR宇都宮線という都市間輸送の強い軸があるにも関わらず、JR宇都宮駅から市内各方面に向かう二次交通が弱いため「まちのポテンシャル」をほとんど活かせていません。
 (路線バスはたくさん走っていますが、一般道を走るので時間が読めないし、余所から来た人にとっては路線バスがたくさんありすぎると「どれに乗っていいか分からない」状態になり、分かりにくい)


▲ スイス・バーゼルのトラム。人口は約16.6万人。旧来からの路面電車をLRT化している都市です。

 不幸なのは、地元でしか生活したことがない人の多くはこの弱点に気付いていないか、目を背けているということ。
 むしろ周辺地域や余所から来た人の方が、この点を敏感に感じ取っています。
 今後の宇都宮の発展は、公共交通ネットワーク拡充が鍵となります。


▲ 米国・ヒューストンのLRT。人口は約210万人。「クルマ社会の権化」とでもいうべき米国でも、過度なクルマ依存への反省から都市計画の見直しが行われ、多数の都市にLRTが開業。都市内交通に変革をもたらしています。


 下野新聞「LRTを問う」全8回を読んで、LRTに懐疑的な記事一辺倒だった同紙も、公共交通を取り巻く現在の諸状況を取材し、従来の論調の誤りに気付いたのかなと感じます。
 財政状況は全国屈指の健全さを誇るものの、クルマがないと移動に困る都市構造なのに渋滞多発で移動がままならない50万都市・宇都宮が、長期戦略に基づいた新しいまちづくりを推進することに期待します。


【連載記事「LRTを問う」について】

「LRTを問う」第1回(下野新聞 2012年10月27日)について

「LRTを問う」第2回(下野新聞 2012年10月28日)について

「LRTを問う」第3回(下野新聞 2012年10月29日)について

「LRTを問う」第4回(下野新聞 2012年10月30日)について

「LRTを問う」第5回(下野新聞 2012年10月31日)について

「LRTを問う」第6回(下野新聞 2012年11月1日)について

「LRTを問う」第7回(下野新聞 2012年11月2日)について

「LRTを問う」第8回(下野新聞 2012年11月3日)について


 なお、この特集はあくまでも私自身が見聞きしたことについて、感じたことや考えたことを率直に書き綴ったものであり、特定の候補者を応援したり、特定の候補者への投票を呼びかけるものではありません。

 記載内容は、私自身の「ツィッター」でのつぶやきがベースです。
 既にLRTについてよくご存じの方はもちろん、LRTについてあまり詳しくない人・興味がなかった人にも「そうなんだ」と思ってもらえるように、国内外の先進事例や、論拠となる数値をできる限り示して説明するようにしています。


※なお、この記事にコメントをつける場合は、記事タイトル下の「CM」部分をクリックすると投稿できます。


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