下館レイル倶楽部
真岡鐵道・関東鉄道常総線・JR水戸線が集まる「下館」を中心に活動する鉄道模型趣味・鉄道趣味の倶楽部です。(2009年6月12日開設)
【特集:宇都宮LRT】下野新聞「LRTを問う」第5回について
- 2012/11/13 (Tue)
- 【特集:宇都宮LRT】 |
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栃木県下最大の地方新聞「下野新聞」では、2012年10月27日(土)~11月3日(土)の8日間に渡って、LRT導入を巡る是非についての連載記事「LRTを問う」を掲載しました。
【第5回の概要】2012年10月31日(水)掲載
■BRT:コスト安いが課題も
名古屋では市内に張り巡らされていた市電が「渋滞の元凶」として全廃され、代わりに地下鉄が整備された。
しかし、地下鉄だけでは市電を代替しきれず、地下鉄を補完する交通機関として「基幹バス」が整備された。
基幹バスは8路線の整備を予定していたものの、実際には2路線だけの整備に留まっている。
基幹バスには走行レーンがあり、平日朝夕ラッシュ時はバス専用となっている。
しかし、カラー舗装のみで物理的に区分しているわけではないため、一般車の侵入が後を絶たない(LRTは軌道法で一般車の侵入を禁止している)。
また、ラッシュ時にはバス数珠つなぎ現象が発生するうえ、車内が混雑してくると料金支払いが混乱するなど、問題も多い。
名古屋の基幹バスは、関東自動車が「コスト面で優位」と主張したBRT(バス・ラピッド・トランジット)に近く(?)、名古屋の新出来町線はカラー舗装や屋根付き停留所など、初期投資は1kmあたり2.4億円程度。
参考までに、全線高架路線を走る「ガイドウェイバス」は6.8kmで380億円の整備費がかかっている。
新潟では、2年後に都心部のBRTを整備する計画がある。
新潟駅高架下の交通広場完成に目処がつく10年後には、LRTへの転換を検討する予定となっている。
走行性に優れたLRT、安上がりで済むBRT。
どちらを選ぶかは「基準をどこに置くかで判断は分かれる」。
【第5回の記事内容について思うこと】
まず、大きな誤解を招く記述があるので明記しますが、「BRTが安い」とは一概に言えないという点に注意が必要です。
BRTの初期投資は「インフラの質」で変わり、その質によって投資額が安くもなればLRT以上に高くつくことがあるのです。
また、「BRT=連接バス」ではない点も注意が必要です。
BRTというのは(LRTと同様)「システムの名称」であって、車両が連接かどうかは、実は直接的には関係ないのです。
建設費については、LRTの場合は、軌道を敷設する必要があるため、ある程度投資額が読めます。
一方BRTについては、実はまだ「これがBRTです」という標準的な例がないため、明確に「○km整備すると○○億円です」といった数字が出しにくい状況があります。
走行レーンのカラー舗装程度で済ますのか、専用走行空間を確保するかでも変わります。
専用走行空間を確保するのであれば、費用的にはLRTと大差なくなります。
▲ 中国・広州市のBRT。専用空間の確保だけにとどまらず、なんと新幹線の駅のような追い抜き線まで備えた、とんでもなく豪勢なインフラを整備しています。おそらく、ここまでやるならLRTで長編成を走らせる方がはるかに安価で済むし、輸送力も大きくできる筈です。
また、運行経費はバスの方が高く、定時運行性・速達性・将来確実性・シンボル性はLRTが相当に優位である点にも注意が必要です。
鉄軌道は摩擦係数が低い鉄のレールを走るので、摩擦係数が高いゴムタイヤのバスに比べると、それだけでもかなり優位なのです。
「バスは安い」というのは、あくまでも初期投資だけの話なんです。
また、「1人の運転士で何人のお客さんを運べるか」という見方もあります。
交通事業の経費の内、人件費が占める割合というのは実はかなり大きいので重要なポイントです。
もし連接バスを使用する場合、導入価格は7,000~8,000万円で、車両寿命は8~10年。1台あたりの輸送力は路線バスの1.5倍程度です。
LRV(ライト・レール・ヴィークル/LRT用の車両)は、導入価格は2~3億円で、車両寿命は30年以上。1編成あたりの輸送力は路線バスの2倍(富山「ポートラム」)~3倍(広島「グリーンムーバー」)で、もし欧米のような併結運転を行うなら、2編成併結で4~6倍、3編成併結だと6~9倍となります。
輸送力の差は、(1)導入する車両の数と、(2)雇用する運転士の数に関連してきます。
輸送力が大きい(大きくするのが容易な)LRTは、運転士の数をかなり減らせますが、BRTはそこまでは減らせず、路線バスだとかなり多くの運転士を雇用する必要があります。
「コミュニティバスをたくさん走らせればLRTを導入しなくて良いんだ」なんて話も出るようですが、コミュニティバスの輸送力は路線バスの半分以下ですので、人件費は路線バスの2倍、LRTの4~6倍(LRV2編成併結の場合の8~12倍、3編成併結の場合の12~18倍)に膨らみます。
(注:コミュニティバスは必要で重要な交通モードですが、輸送需要に見合った運行ルートを検討することが大切です)
上の例でも分かると思いますが、この点でもLRTが一概に「高い」ともいえないし、BRTが一概に「安い」ともいえないのだ、ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
そもそも論なんですが、「LRTかBRTか」的な二択は「ナンセンス」ではあります。
というのも、輸送需要や地域特性などに応じて「LRTもBRTも路線バスもコミバスもデマンド交通も」というのが本筋であるからです。
「このルートにはどの交通モードが適しているのか」という議論を冷静に行っていくことこそが、市全体の利益に繋がっていくものと思います。
宇都宮の場合、東西基幹交通としては輸送力が大きく、シンボル性が高く、インパクトも絶大で、将来東武鉄道やJR線などへの直通運転も視野に入れればLRTこそ最適だと私は考えているのですが、「BRTに適した地域はないのか」と問われれば「あると思います」というのがお答えになります。
また、交通機関に限った話ではないのですが、「初期投資が安い=将来負担も少ない」ではない点にも注意が必要です。
たとえば、ランニングコストが割高な身近な例としては、インクジェットプリンターが挙げられます。本体価格は相当激安なんですが、インク代はかなり割高です。
交通機関も同様で、しかも何十年単位で使っていくものですから、イニシャルコスト(初期費用)よりも、むしろランニングコスト(維持管理費用)にこそ注目すべきであるといえます。
【連載記事「LRTを問う」について】
・「LRTを問う」第1回(下野新聞 2012年10月27日)について
・「LRTを問う」第2回(下野新聞 2012年10月28日)について
・「LRTを問う」第3回(下野新聞 2012年10月29日)について
・「LRTを問う」第4回(下野新聞 2012年10月30日)について
・「LRTを問う」第5回(下野新聞 2012年10月31日)について
・「LRTを問う」第6回(下野新聞 2012年11月1日)について
・「LRTを問う」第7回(下野新聞 2012年11月2日)について
・「LRTを問う」第8回(下野新聞 2012年11月3日)について
なお、この特集はあくまでも私自身が見聞きしたことについて、感じたことや考えたことを率直に書き綴ったものであり、特定の候補者を応援したり、特定の候補者への投票を呼びかけるものではありません。
記載内容は、私自身の「ツィッター」でのつぶやきがベースです。
既にLRTについてよくご存じの方はもちろん、LRTについてあまり詳しくない人・興味がなかった人にも「そうなんだ」と思ってもらえるように、国内外の先進事例や、論拠となる数値をできる限り示して説明するようにしています。
※なお、この記事にコメントをつける場合は、記事タイトル下の「CM」部分をクリックすると投稿できます。
【第5回の概要】2012年10月31日(水)掲載
■BRT:コスト安いが課題も
名古屋では市内に張り巡らされていた市電が「渋滞の元凶」として全廃され、代わりに地下鉄が整備された。
しかし、地下鉄だけでは市電を代替しきれず、地下鉄を補完する交通機関として「基幹バス」が整備された。
基幹バスは8路線の整備を予定していたものの、実際には2路線だけの整備に留まっている。
基幹バスには走行レーンがあり、平日朝夕ラッシュ時はバス専用となっている。
しかし、カラー舗装のみで物理的に区分しているわけではないため、一般車の侵入が後を絶たない(LRTは軌道法で一般車の侵入を禁止している)。
また、ラッシュ時にはバス数珠つなぎ現象が発生するうえ、車内が混雑してくると料金支払いが混乱するなど、問題も多い。
名古屋の基幹バスは、関東自動車が「コスト面で優位」と主張したBRT(バス・ラピッド・トランジット)に近く(?)、名古屋の新出来町線はカラー舗装や屋根付き停留所など、初期投資は1kmあたり2.4億円程度。
参考までに、全線高架路線を走る「ガイドウェイバス」は6.8kmで380億円の整備費がかかっている。
新潟では、2年後に都心部のBRTを整備する計画がある。
新潟駅高架下の交通広場完成に目処がつく10年後には、LRTへの転換を検討する予定となっている。
走行性に優れたLRT、安上がりで済むBRT。
どちらを選ぶかは「基準をどこに置くかで判断は分かれる」。
【第5回の記事内容について思うこと】
まず、大きな誤解を招く記述があるので明記しますが、「BRTが安い」とは一概に言えないという点に注意が必要です。
BRTの初期投資は「インフラの質」で変わり、その質によって投資額が安くもなればLRT以上に高くつくことがあるのです。
また、「BRT=連接バス」ではない点も注意が必要です。
BRTというのは(LRTと同様)「システムの名称」であって、車両が連接かどうかは、実は直接的には関係ないのです。
建設費については、LRTの場合は、軌道を敷設する必要があるため、ある程度投資額が読めます。
一方BRTについては、実はまだ「これがBRTです」という標準的な例がないため、明確に「○km整備すると○○億円です」といった数字が出しにくい状況があります。
走行レーンのカラー舗装程度で済ますのか、専用走行空間を確保するかでも変わります。
専用走行空間を確保するのであれば、費用的にはLRTと大差なくなります。
▲ 中国・広州市のBRT。専用空間の確保だけにとどまらず、なんと新幹線の駅のような追い抜き線まで備えた、とんでもなく豪勢なインフラを整備しています。おそらく、ここまでやるならLRTで長編成を走らせる方がはるかに安価で済むし、輸送力も大きくできる筈です。
また、運行経費はバスの方が高く、定時運行性・速達性・将来確実性・シンボル性はLRTが相当に優位である点にも注意が必要です。
鉄軌道は摩擦係数が低い鉄のレールを走るので、摩擦係数が高いゴムタイヤのバスに比べると、それだけでもかなり優位なのです。
「バスは安い」というのは、あくまでも初期投資だけの話なんです。
また、「1人の運転士で何人のお客さんを運べるか」という見方もあります。
交通事業の経費の内、人件費が占める割合というのは実はかなり大きいので重要なポイントです。
もし連接バスを使用する場合、導入価格は7,000~8,000万円で、車両寿命は8~10年。1台あたりの輸送力は路線バスの1.5倍程度です。
LRV(ライト・レール・ヴィークル/LRT用の車両)は、導入価格は2~3億円で、車両寿命は30年以上。1編成あたりの輸送力は路線バスの2倍(富山「ポートラム」)~3倍(広島「グリーンムーバー」)で、もし欧米のような併結運転を行うなら、2編成併結で4~6倍、3編成併結だと6~9倍となります。
輸送力の差は、(1)導入する車両の数と、(2)雇用する運転士の数に関連してきます。
輸送力が大きい(大きくするのが容易な)LRTは、運転士の数をかなり減らせますが、BRTはそこまでは減らせず、路線バスだとかなり多くの運転士を雇用する必要があります。
「コミュニティバスをたくさん走らせればLRTを導入しなくて良いんだ」なんて話も出るようですが、コミュニティバスの輸送力は路線バスの半分以下ですので、人件費は路線バスの2倍、LRTの4~6倍(LRV2編成併結の場合の8~12倍、3編成併結の場合の12~18倍)に膨らみます。
(注:コミュニティバスは必要で重要な交通モードですが、輸送需要に見合った運行ルートを検討することが大切です)
上の例でも分かると思いますが、この点でもLRTが一概に「高い」ともいえないし、BRTが一概に「安い」ともいえないのだ、ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
そもそも論なんですが、「LRTかBRTか」的な二択は「ナンセンス」ではあります。
というのも、輸送需要や地域特性などに応じて「LRTもBRTも路線バスもコミバスもデマンド交通も」というのが本筋であるからです。
「このルートにはどの交通モードが適しているのか」という議論を冷静に行っていくことこそが、市全体の利益に繋がっていくものと思います。
宇都宮の場合、東西基幹交通としては輸送力が大きく、シンボル性が高く、インパクトも絶大で、将来東武鉄道やJR線などへの直通運転も視野に入れればLRTこそ最適だと私は考えているのですが、「BRTに適した地域はないのか」と問われれば「あると思います」というのがお答えになります。
また、交通機関に限った話ではないのですが、「初期投資が安い=将来負担も少ない」ではない点にも注意が必要です。
たとえば、ランニングコストが割高な身近な例としては、インクジェットプリンターが挙げられます。本体価格は相当激安なんですが、インク代はかなり割高です。
交通機関も同様で、しかも何十年単位で使っていくものですから、イニシャルコスト(初期費用)よりも、むしろランニングコスト(維持管理費用)にこそ注目すべきであるといえます。
【連載記事「LRTを問う」について】
・「LRTを問う」第1回(下野新聞 2012年10月27日)について
・「LRTを問う」第2回(下野新聞 2012年10月28日)について
・「LRTを問う」第3回(下野新聞 2012年10月29日)について
・「LRTを問う」第4回(下野新聞 2012年10月30日)について
・「LRTを問う」第5回(下野新聞 2012年10月31日)について
・「LRTを問う」第6回(下野新聞 2012年11月1日)について
・「LRTを問う」第7回(下野新聞 2012年11月2日)について
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「下館レイル倶楽部」は、鉄道の街・下館(茨城県筑西市)を中心に活動する鉄道&鉄道模型の趣味団体です。
しもだて地域交流センター「アルテリオ」で鉄道模型の運転会を毎月開催するほか、各種イベントの見学・撮影なども実施しています。
公共交通の上手な利活用や、鉄道など公共交通を活かしたまちづくりなどの情報発信も行います!
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