下館レイル倶楽部
真岡鐵道・関東鉄道常総線・JR水戸線が集まる「下館」を中心に活動する鉄道模型趣味・鉄道趣味の倶楽部です。(2009年6月12日開設)
【特集:宇都宮LRT】朝日新聞の連載記事「宮っ子の選択」前編について
- 2012/11/13 (Tue)
- 【特集:宇都宮LRT】 |
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「下野新聞」の連載記事「LRTを問う」に続き、「朝日新聞」栃木版でも、宇都宮市長関連記事「宮っ子の選択・宇都宮市長選」の掲載がスタートしました。
2012年11月6日(火)には、LRT導入を巡る諸問題を取り上げた「宮っ子の選択・宇都宮市長選/前編」(←記事にジャンプします)が掲載されました。
【前編の概要】2012年11月6日(火)掲載
■都市間競争に生き残れるのか
2012年8月25日(金)に行われた宇都宮市の「交通まちづくり市民フォーラム」基調講演で、京都大学大学院の藤井 聡(さとし)教授は、「LRTへの投資により企業立地や人口集中で税収が増える。渋滞も減り、車を使う人にも便利になり、街に利益をもたらす」と説明した。
宇都宮市が想定する将来の公共交通の姿は、既存鉄道・LRT・路線バスなどの「幹線」に、きめ細かな「地域内交通」が結節する状況。
先日、市北部にある国本地域でも「くにもとふれあい号」が運行を開始。地域内交通は既に市内7地区で導入済み、2年後には14地区に増える予定だ。
LRT導入には市民の合意が必要で、宇都宮市は昨年から市民説明会を度々開いてきた。
試算で約380億円の大規模事業であることや、導入後も「採算が取れず」に公的支援が必要になるのでは……といった反対意見もある。
LRTをJR宇都宮駅西口の大通りに導入すると競合関係になる可能性があるのが関東自動車(従来はLRT導入に反対していた)。
その関東自動車の会長で、今春同社を傘下に収めた「みちのりHD」の松本順社長は、市が公共交通の総合的なまちづくりを進めることに賛意を示し、「宇都宮市と栃木県の公共交通ネットワーク構築のブレーンになりたい」と語っている。
海外LRT事情に詳しい宇都宮大大学院の森本 章倫(あきのり)教授は、英国でバス会社と競合したまま開業したLRTが破綻した例(後述)を挙げて、「公共交通は道路や橋と同じ社会資本。バス事業者と協議し市全体の公共交通充実を考えるべき」と話す。
【前編の記事内容について思うこと】
朝日新聞の記事は残念ながら説明不足。
宇大の森本教授が挙げた「英国でのLRT破綻例」とは、「シェフィールド・スーパートラム」のこと。
(注:朝日新聞の記事だけを見ると、破綻したケースがたくさんあるようにも受け取れるけど、実際に「LRTを導入したけどうまくいかなかった」のは、シェフィールドだけといって良い)
▲ 英国シェフィールドの「スーパートラム」。1994年に開業したものの、民間主導で行政のまちづくりとリンクしていなかったこと、既存バス会社との調整を行わず競合関係になってしまったこと、地形的不適合が多かったことなど、一時経営破綻にまで陥ってしまいました。
「シェフィールド・スーパートラム」は1994年に開業しましたが、主に3つの要因で経営破綻し、競合するバス会社が買収し、運行を継続することになりました。
■要因(1)……バスの規制緩和
英国では当時、バス事業の規制緩和が行われていて、シェフィールドでもバス会社は規制緩和によって路線網の拡充を行いましたが、LRTとの競合関係の解消は行いませんでした。
■要因(2)……地形的な不適合
シェフィールドは起伏が激しく、どちらかというと鉄軌道には不向きな地形です。
そこで、運行会社は100パーミル(1,000m進むと100m上る)の登坂能力を有する車両を用意したのですが、さすがに粘着式(鉄車輪だけで勾配を上り下りする方式)ではこれ以上の急勾配の上り下りは特別な装置(ラック式レール)を用いないと無理です。
(注:日本の粘着式鉄道の最急勾配は箱根登山鉄道の80パーミルで、かつての碓氷峠は66.7パーミルでした)
そこで、急勾配を避けて迂回コースを多用したのですが、結果的に運行距離が伸びてしまい、鉄軌道より勾配に強いので最短距離を運行でき、所要時間も短い路線バスに乗客が流れてしまったのです。
■要因(3)……行政と民間の調整不足
LRT導入に成功した都市では、行政が民間ときちんと協議を行ったうえで、まちづくりや交通体系の見直しが行われました。
しかし、シェフィールドのLRT導入は民間主導で推し進められ、まちづくりとうまくリンクしていなかったので、上記(1)(2)と相まって経営破綻に陥ってしまったのでした。
このことは「シェフィールドの躓き(つまづき)」と呼ばれ、英国におけるLRT導入は、2004年までの約10年間行われなくなるという「冬の時代」に突入してしまいました。
しかし、「シェフィールド・スーパートラム」の失敗は、数多くの教訓をもたらしました。
その後、英国ではシェフィールドでの教訓を踏まえて、まちづくりとリンクしたLRT計画が練られるようになり、バーミンガム、ロンドン郊外のクロイドン、ノッティンガムと、次々にLRTが開業しています。
なお、シェフィールド・スーパートラムは失敗例と言いつつも、年間1,300万人以上(約3.6万人/日)が利用しています。
また、今から15年ほど前の導入当時は、日本と同様、公共交通に対する公的支援が不十分だった点も考慮する必要はあるでしょうね。
▲ ロンドン近郊・クロイドンのLRT。「シェフィールドの躓き(つまづき)」で10年ほど英国でのLRT導入機運は萎んでいたものの、行政も参画してまちづくりの中で「ちゃんとした検討」を行った上で、まちづくりの一環として導入するようになったため、現在は各地で導入が相次いでいます。
シェフィールドでの事例は、
・行政がLRT化断念を決定した岐阜の路面電車の廃止事例
・実験的要素が強く問題山積のフランス・ナンシーのゴムタイヤトラム
と並び、LRT導入を成功させるために貴重な「戦訓」を多数示しています。
▲ フランス・ナンシーのゴムタイヤトラム。ナンシーが採用したのは「TVR」方式で、車体中央の案内車輪が走行路中央に敷かれた案内軌条を捉えて走ります。トロリーバスのインフラを流用できる利点はあるものの、技術的には未成熟で、ナンシーはLRTへの転換が決まっています。
これらの教訓から、宇都宮でLRTを導入してネットワーク型コンパクトシティを実現するには、
(1)市がまちづくりと交通体系について十分検討し、
(2)バス事業者と競合関係にならないよう調整し、
(3)適切なルート設定を行う必要がある、
……ということがいえます。
(宇都宮の場合、シェフィールドのような高低差がある地形ではないので、地表を走る軌道系交通機関にとって障害になる「勾配の問題」は考慮しなくて良いです)
なお、本記事はあくまでも私自身が見聞きしたことについて、感じたことや考えたことを率直に書き綴ったものであり、特定の候補者を応援したり、特定の候補者への投票を呼びかけるものではありません。
記載内容は、私自身の「ツィッター」でのつぶやきがベースです。
既にLRTについてよくご存じの方はもちろん、LRTについてあまり詳しくない人・興味がなかった人にも「そうなんだ」と思ってもらえるように、国内外の先進事例や、論拠となる数値をできる限り示して説明するようにしています。
※なお、この記事にコメントをつける場合は、記事タイトル下の「CM」部分をクリックすると投稿できます。
2012年11月6日(火)には、LRT導入を巡る諸問題を取り上げた「宮っ子の選択・宇都宮市長選/前編」(←記事にジャンプします)が掲載されました。
【前編の概要】2012年11月6日(火)掲載
■都市間競争に生き残れるのか
2012年8月25日(金)に行われた宇都宮市の「交通まちづくり市民フォーラム」基調講演で、京都大学大学院の藤井 聡(さとし)教授は、「LRTへの投資により企業立地や人口集中で税収が増える。渋滞も減り、車を使う人にも便利になり、街に利益をもたらす」と説明した。
宇都宮市が想定する将来の公共交通の姿は、既存鉄道・LRT・路線バスなどの「幹線」に、きめ細かな「地域内交通」が結節する状況。
先日、市北部にある国本地域でも「くにもとふれあい号」が運行を開始。地域内交通は既に市内7地区で導入済み、2年後には14地区に増える予定だ。
LRT導入には市民の合意が必要で、宇都宮市は昨年から市民説明会を度々開いてきた。
試算で約380億円の大規模事業であることや、導入後も「採算が取れず」に公的支援が必要になるのでは……といった反対意見もある。
LRTをJR宇都宮駅西口の大通りに導入すると競合関係になる可能性があるのが関東自動車(従来はLRT導入に反対していた)。
その関東自動車の会長で、今春同社を傘下に収めた「みちのりHD」の松本順社長は、市が公共交通の総合的なまちづくりを進めることに賛意を示し、「宇都宮市と栃木県の公共交通ネットワーク構築のブレーンになりたい」と語っている。
海外LRT事情に詳しい宇都宮大大学院の森本 章倫(あきのり)教授は、英国でバス会社と競合したまま開業したLRTが破綻した例(後述)を挙げて、「公共交通は道路や橋と同じ社会資本。バス事業者と協議し市全体の公共交通充実を考えるべき」と話す。
【前編の記事内容について思うこと】
朝日新聞の記事は残念ながら説明不足。
宇大の森本教授が挙げた「英国でのLRT破綻例」とは、「シェフィールド・スーパートラム」のこと。
(注:朝日新聞の記事だけを見ると、破綻したケースがたくさんあるようにも受け取れるけど、実際に「LRTを導入したけどうまくいかなかった」のは、シェフィールドだけといって良い)
▲ 英国シェフィールドの「スーパートラム」。1994年に開業したものの、民間主導で行政のまちづくりとリンクしていなかったこと、既存バス会社との調整を行わず競合関係になってしまったこと、地形的不適合が多かったことなど、一時経営破綻にまで陥ってしまいました。
「シェフィールド・スーパートラム」は1994年に開業しましたが、主に3つの要因で経営破綻し、競合するバス会社が買収し、運行を継続することになりました。
■要因(1)……バスの規制緩和
英国では当時、バス事業の規制緩和が行われていて、シェフィールドでもバス会社は規制緩和によって路線網の拡充を行いましたが、LRTとの競合関係の解消は行いませんでした。
■要因(2)……地形的な不適合
シェフィールドは起伏が激しく、どちらかというと鉄軌道には不向きな地形です。
そこで、運行会社は100パーミル(1,000m進むと100m上る)の登坂能力を有する車両を用意したのですが、さすがに粘着式(鉄車輪だけで勾配を上り下りする方式)ではこれ以上の急勾配の上り下りは特別な装置(ラック式レール)を用いないと無理です。
(注:日本の粘着式鉄道の最急勾配は箱根登山鉄道の80パーミルで、かつての碓氷峠は66.7パーミルでした)
そこで、急勾配を避けて迂回コースを多用したのですが、結果的に運行距離が伸びてしまい、鉄軌道より勾配に強いので最短距離を運行でき、所要時間も短い路線バスに乗客が流れてしまったのです。
■要因(3)……行政と民間の調整不足
LRT導入に成功した都市では、行政が民間ときちんと協議を行ったうえで、まちづくりや交通体系の見直しが行われました。
しかし、シェフィールドのLRT導入は民間主導で推し進められ、まちづくりとうまくリンクしていなかったので、上記(1)(2)と相まって経営破綻に陥ってしまったのでした。
このことは「シェフィールドの躓き(つまづき)」と呼ばれ、英国におけるLRT導入は、2004年までの約10年間行われなくなるという「冬の時代」に突入してしまいました。
しかし、「シェフィールド・スーパートラム」の失敗は、数多くの教訓をもたらしました。
その後、英国ではシェフィールドでの教訓を踏まえて、まちづくりとリンクしたLRT計画が練られるようになり、バーミンガム、ロンドン郊外のクロイドン、ノッティンガムと、次々にLRTが開業しています。
なお、シェフィールド・スーパートラムは失敗例と言いつつも、年間1,300万人以上(約3.6万人/日)が利用しています。
また、今から15年ほど前の導入当時は、日本と同様、公共交通に対する公的支援が不十分だった点も考慮する必要はあるでしょうね。
▲ ロンドン近郊・クロイドンのLRT。「シェフィールドの躓き(つまづき)」で10年ほど英国でのLRT導入機運は萎んでいたものの、行政も参画してまちづくりの中で「ちゃんとした検討」を行った上で、まちづくりの一環として導入するようになったため、現在は各地で導入が相次いでいます。
シェフィールドでの事例は、
・行政がLRT化断念を決定した岐阜の路面電車の廃止事例
・実験的要素が強く問題山積のフランス・ナンシーのゴムタイヤトラム
と並び、LRT導入を成功させるために貴重な「戦訓」を多数示しています。
▲ フランス・ナンシーのゴムタイヤトラム。ナンシーが採用したのは「TVR」方式で、車体中央の案内車輪が走行路中央に敷かれた案内軌条を捉えて走ります。トロリーバスのインフラを流用できる利点はあるものの、技術的には未成熟で、ナンシーはLRTへの転換が決まっています。
これらの教訓から、宇都宮でLRTを導入してネットワーク型コンパクトシティを実現するには、
(1)市がまちづくりと交通体系について十分検討し、
(2)バス事業者と競合関係にならないよう調整し、
(3)適切なルート設定を行う必要がある、
……ということがいえます。
(宇都宮の場合、シェフィールドのような高低差がある地形ではないので、地表を走る軌道系交通機関にとって障害になる「勾配の問題」は考慮しなくて良いです)
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「下館レイル倶楽部」は、鉄道の街・下館(茨城県筑西市)を中心に活動する鉄道&鉄道模型の趣味団体です。
しもだて地域交流センター「アルテリオ」で鉄道模型の運転会を毎月開催するほか、各種イベントの見学・撮影なども実施しています。
公共交通の上手な利活用や、鉄道など公共交通を活かしたまちづくりなどの情報発信も行います!
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nal@sainet.or.jp(←「@」を半角文字にしてお送りください)
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